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静岡県高校総体を制したものの新型コロナで、2022年のインターハイを辞退した磐田東サッカー部。大きな困難に立ち向かい、再び前を向いた1年。この経験は選手たちにとって、必ずかけがえのない財産に変わるはずだ。
◆夏の全国へ“特別な思い”
2023年5月、ロッカールームでは試合前の選手たちを山田智章(としあき)監督が鼓舞していた。
磐田東高校サッカー部・山田 智章 監督:
絶対に勝ちにいく、それはもう当たり前のこと。ただそこで大事なのは、去年の3年生の思いをしっかり背負って戦え。去年の3年生は頂点まで行きながら、結局 全国の舞台に立てなかったわけだから。その思いを背負って戦え、そうしたら体が動くから
夏の全国、そして連覇をかけ、静岡県高校総体に挑んだ磐田東。決勝に進んだ清水桜が丘に敗れ、ベスト8で涙をのんだ。しかし、2022年に味わった行き場のない悔しさを乗り越えたことが、彼らを大きく成長させていた。
◆コロナに負け幻となった全国大会
2022年、格上の強豪を次々と撃破し、17年ぶりに県の頂点に輝いた磐田東。「全国初勝利で歴史を変える」。その決意を胸に徳島入りした選手たちに試練が訪れたのは、初戦の前日。1人の選手が発熱した。
「本日、選手団の中からコロナ陽性者が1名出ました。大会を辞退しなければいけません。サッカーに勝ちコロナに負けました。」
磐田東高校サッカー部・岡村 虹輝 選手:
磐田東を出発する前のバスで検査して陰性だったので、コロナのことなんて頭になくて、実際に向こうに行って、寝て起きたら熱が出てたんで、すごくショックでしたね
◆コロナ明けの不安…支えた仲間
2022年の県総体準決勝・静岡学園とのPK戦。2年生守護神として、2本のセーブで勝利に貢献した岡村虹輝(こうき)選手。新型コロナは、群雄割拠の静岡を制した立役者にも、猛威をふるった。磐田に戻ったあとも感染が拡大し、合わせて9人の陽性が判明した。
学校生活には戻れても、チームは再び自分を受け入れてくれるのか。岡村選手本人だけでなく家族も抱えていたその不安は、仲間たちがすぐにぬぐい去ってくれた。
岡村選手の母・智美さん:
練習に行って普通にできるのかなという、不安はあったんですけど、周りの皆さんがうまく当たり障りなく、普通に接してくれているというのがわかるというか。ほんと恵まれてるなって、周りの人に、支えてもらってるなというのは感じ取れました
◆2人の守護神 きずなと再出発
岡村選手を支えた1人が、1つしかないゴールキーパーのポジションを争う、同級生の鈴木天結(てんゆう)選手だ。
磐田東高校サッカー部・鈴木 天結 選手:
岡村がコロナってわかって、正直 悔しい気持ちもありましたけど、それよりも岡村1人のせいにしないように声をかけたり、自分たちが最初になっていた可能性もあるので、そういうところはみんなで励ましたりしていました
小学生の県選抜の選考会で初めて出会い、中学時代はジュビロ磐田の下部組織で、切磋琢磨しあってきた2人。長く苦楽をともにしてきたからこそ、ライバルであり、良き理解者でもあった。
磐田東高校サッカー部・岡村 虹輝 選手:
コロナ明け最初の練習のときは、みんなと顔を合わせるのも、すごく怖かったですし、何て言われるかわかんなかったです。だけど笑顔で優しい言葉をかけてもらって、すごく安心してもう1回頑張ろうってなりましたね
◆群雄割拠の静岡 冬は頂点にたてず
再び居場所を与えてくれたこのチームで、3年生と全国へ。そのラストチャンスに挑んだ、2022年冬の選手権、ベスト16で激突したのは古豪・浜名。試合は延長にもつれこむ接戦だったが、3年生と全国大会をめざす戦いはこの試合が最後となってしまった。
早すぎる敗戦を受け止めきれない選手たち。涙する岡村選手を支えていたのは、試合に出られなかった悔しさを押し殺していたライバルだった。
磐田東高校サッカー部・岡村 虹輝 選手:
天結から励まされたことも何回もあったし、いろいろな経験をさせてもらった1年でした。次、全国の舞台を目指そうっていう思いは、誰よりも僕が一番強い自信ありますし、来年は絶対にこの3年生の涙を無意味にしないように、意味のある涙にするようにしたいです
◆勝利に貢献を 最上級生の責任
最上級生となった2023年、副キャプテンに就任した岡村選手。その責任、そして高校生活最後の1年にかける思いが、チームへの振る舞いにも現れ始めていた。
磐田東高校サッカー部・山田 智章 監督:
岡村と天結でGKという1つのポジションを争ってるわけですけど、どっちが出てても必ずベンチにいるほうから声を出して、チームに対して叱咤激励する。とくに岡村は、ミスしてもプラスの声掛け、いいことがあればほめる、そういう声掛けがピッチの内外でも聞こえるので、そういうところが成長しているのかなと思いますね
普段はスタメン争いをしていても、試合になれば、チームの勝利に貢献したいという思いは同じ。この姿勢もまた、最高のライバルが教えてくれた。
◆苦難を乗り越えさらに強く
県総体の3回戦では、強豪・藤枝東を破った静清を相手に先制を許す苦しい展開に。それでも試合終了間際に同点に追いつき、PK戦の末 勝利した。
磐田東高校サッカー部・岡村 虹輝 選手:
天結は泣いてましたね。PKの前にハイタッチしたときにもう泣いてて、ベンチメンバーもこれだけ戦ってるんだなって思って、PKで絶対に応えなきゃと思って戦いにいきました
2022年の無念は晴らせなくても、150人を超える仲間の思いが集結し、掴んだ勝利もあった。この1年の経験が、彼らをさらに強くしてくれるはずだ。