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静岡・熱海市で起きた土石流災害がきっかけで生まれたカフェ「あいぞめ珈琲店」。丘の上からの絶景とこだわりコーヒーが評判をよび、観光客もわざわざ足ぶ人気スポットは、4月に1周年を迎えました。
相模湾を一望するオーシャンビューの絶景
あいぞめ珈琲店があるのは、国道135号沿いの伊豆山神社参道看板の真向かい。
ピンクの外観の建物「浜会館」の4階です。国道に面しているのが3階なので1階分、階段をのぼります。
広い窓からは相模湾を一望でき、窓に向かってカウンター席が11席。4人掛けのテーブル席や、ソファ席など合計30席あります。
どのコーヒーも500円で「誰もが気軽」
まずおすすめしたいのが、同じ熱海市にある人気コーヒー店「カモメ珈琲豆店」から仕入れてた自家焙煎豆のスペシャルティコーヒー。お好みで3種類から選べます。
ブラジルやグアテマラ、エチオピアなど、世界各国の豆で、できる限り無農薬やフェアトレードの商品を取り扱うとうこだわりぶりです。
どのコーヒーも500円で提供するのは、誰もが気軽に利用できるようにするためです。
メインメニューはフレンチトースト。「プレーン(750円)」「季節のジャム添え(850円)」「生ハムとクリームチーズのせ(850円)」の3種類があります。
高齢者から子供まで、みんなが食べやすくておいしい、ふわっふわのフレンチトーストをメインメニューにしました。食事にもなるので、時間帯を選ばずに訪れやすいと思います。
デザートには「ソフトクリーム(350円)」。自分でひいたコーヒー豆のトッピング(50円)をかけて、味変を楽しめます。甘いクリームにほろ苦いさがプラスされ、香り立つ大人の味わいを演出してくれます。
幼い日の阪神淡路の記憶
店主の中野裕基さんは、大阪府守口市の出身です。
(Q.なぜ縁もゆかりもない熱海へ来たのか)
あいぞめ珈琲店 店主・中野裕基さん:
大阪で工場に就職したものの職場環境で悩みが多く、ふと1人で町のゴミ拾いを始めてみたんです。すると価値観に変化が出てきて、だんだんと「街に貢献できる人間になりたい」「地域とつながる仕事がしたい」と思うようになってきたんです
まちづくりに熱心な企業を探して熱海へ移住してきたのは2020年。しかしコロナの影響で順調なスタートとは言えず、やっと慣れてきたと思った矢先、2021年7月に土石流災害が発生しました。
あいぞめ珈琲店・中野さん:
強い期待を持って熱海に来たので悔しくて。さすがに大阪に帰ろうかと思いました。でも、ふと阪神淡路大震災の幼い記憶(当時6歳)がよみがえってきたんです
「今まさに困っている人たちがいるはずだ。大阪に帰るのはいつでもできる」と決意。中野さんは高齢者宅をまわっては、水や食料を届けました。
その時に出会った人たちとNPO法人「テンカラセン」を立ち上げ、支援活動を続けるなかで、災害で日常が壊されてしまった人や、避難所暮らしを強いられている人たちが戻ったときに、落ち着ける場所が必要だと痛感します。
それは、被災者だけでなく、もともと地域とつながりを持てなかった人や、各地から集まったボランティアにとっても必要な場でした。
長く愛される本気のカフェ
あいぞめ珈琲店・中野さん:
まずクラウドファンディングで資金を集めました。中途半端な「休憩所」にはしたくない。長く継続して愛されるための「本気のカフェ」を目指そうと思いました
当時、飲食店の経験もなければコーヒーの知識もない中野さんを助けてくれたのは、熱海市内でこだわりの自家焙煎コーヒー豆を販売している「カモメ珈琲豆店」でした。
豆の仕入れ先を探そうにも、あてもなかった中野さんに連絡をくれ、夜遅くまでコーヒーの入れ方を何度も教えてくれました。
カフェの名前は、源頼朝と北条政子の出会いにまつわる「逢初橋(あいぞめばし)」にあやかり、「あいぞめ珈琲店」。縁と縁が出会う場所という願いも込めました。
コンセプトは「誰でも気軽に立ち寄れる店」
大切にしたのは、被災者でもそうでなくても、ボランティアでも観光客でも、誰でも気軽に立ち寄れるということです。
それは店の造りにも現れていて、まず入り口には扉がありません。初めての人も、自然に仲間に入っていたと思えるよう、「境界」をなくしました。
階段を登れない人のための昇降機も設置しました。
車いすの人が使いやすいようにトイレを引き戸にしたり、手すりを付けたりしました。オストメイト用のシャワーも設置しました。
あいそめ珈琲店・中野さん:
スペースの都合上、オムツ替えの台がつけられなかったのが心残りなんです。でも、店内でぜんぜん替えてもらっていいんですけどね。
さらに1枚500円の「つながるチケット」は、購入した人が、次に来た人に贈ることができるチケットです。これがあれば、子供もカフェを利用することができます。
「こんな場所がほしかった」と高評価
店内には木のコースターに書かれた、たくさんのメッセージが貼られています。
始めの頃は「がんばってください」とか「笑顔が戻りますように」など、被災地に思いをよせるコメントが多かったものの、最近では純粋によいカフェを楽しんだという、観光客のコメントも目立つようになってきました。
当初は「被災者じゃないと入れないんですか?」とか「ボランティア専用の休憩所ですか?」といった質問もありましたが、イベントを開催し、誰でも気軽に来店できるきっかけ作りもしました。
評判はクチコミでも広まり、この日は県外のまちづくり団体も見学をしていました。
あいそめ珈琲店・中野さん:
支援活動の専門家でもないし、コーヒーのプロでもない。僕にできることは「日常会話」。みなさんに気さくに話しかけるのが僕の仕事だと思います
災害がきっかけで生まれた、あいぞめ珈琲店。
「風化させてはならない」という思いの一方で「被災者はいつまでたっても被災者扱いをうける」という被災地で起こりやすいジレンマを、カフェという形で乗り越えていました。
店に行けば薫り高いコーヒーと、「日常会話」のプロが笑顔で迎えてくれます。
■店名 あいぞめ珈琲店
■住所 静岡県熱海市伊豆山 579-37 浜会館4F
■営業時間 11:00~ (ラストオーダー16:30)
■定 休 水・木(その他イベント出店時)
■電話 0557-88-5733
■アクセス JR熱海駅から徒歩17分 「伊豆山中央駅」バス停から徒歩1分
■駐車場 店から徒歩1分(※場所は電話かインスタグラムで確認を)
【もっと詳しくみる】あいぞめ珈琲店のインスタグラム
取材/髙良綾乃