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ピアノ教室の生徒と先生が連弾をしようとしますが、全く息が合いません。生徒が一人で先に進んでいってしまうからです。先生はどう解決したのでしょうか。そこには人と上手に会話するコツと、共通点がありました。
テレビ静岡で6月11日に放送されたテレビ寺子屋では、音楽教育家の樹原涼子さんが、ピアノ教室に転入してきた生徒のエピソードを話しました。
「連弾」からスタートする理由
音楽教育家・樹原涼子さん:
私が手掛けた教則本「ピアノランド」は、ピアノを好きになってもらいたい、その喜びを分かち合ってもらいたいと、歌と伴奏が付いた「連弾」の形でスタートします。
ピアノを一人で弾いていると、自分の都合だけで弾いてしまいがちです。例えば、「ド」を弾いて「えっと次は…」というように、考えながら探り弾きのように弾いていくと、音楽にはならないですね。
けれど伴奏が入りテンポやハーモニーが付いて、そこにメロディをのせていくと、子供は「ここで弾けばいいんだ」と、安心感がある上で演奏することができます。
幼い頃は、先生が伴奏してくれることによって自信を持って演奏をスタートできる。そして上手になっていったあとで、だんだん先生が手を放して独り立ちしていく。そういう過程をイメージして連弾でスタートしたわけです。
まったく息が合わない生徒の問題点
一緒に作業をする連弾が、いかに大切かと感じたエピソードがあります。
私の教室に転入してきたある生徒は、それまで人と合わせて演奏した経験がありませんでした。私が「伴奏してあげるね」と始めると、自分だけでとっととっとと弾いてしまい、まったく息が合わないのです。
原因を探ってみたら、彼女は「音楽を聴いていない」ということが分かりました。不思議ですよね。ピアノを弾いているのに音楽を聴いていないって。自分の都合しか考えていないのです。
「これは、ピアノだけではない」と思い、練習の仕方を考えました。「この曲の伴奏を弾くから良く聴いていてね」と私が弾きながらメロディを歌います。すると「へえ、こんなにきれいな伴奏が付いているんだね」と彼女がつぶやきました。
「覚えてみて」と言って、伴奏を何回も弾きました。すると、音楽の構造や全体をやっと聴いて理解し、自分はここで出るんだということが分かって、弾き始めることができ、少しずつ合わせられるようになってきました。
音楽は、一定のテンポで流れていきます。だから「えーっと」と思っていると、先生は待たないでどんどん先に行くのです。すると「音楽は進んでいる」と思い、そのテンポに追いついて自分から入っていくことを覚え始めました。
こうやって彼女は、演奏を人と合わせることができるようになってきたわけですが、そのときに、弾くこと、弾かせることばかりにみな一生懸命になっているけれど、いかに「聴く」ことが大事かということを思い知らされました。
人との話も「連弾」
これは人との話でも一緒ですよね。誰かと何かをする時には、相手が何を求めているのか、どうしたいのかを聞いて理解してこそ、一緒に力を合わせて何かを作り上げることができるわけです。
連弾を極めた子供たちというのは、自分の音以上に相手の音を聴いています。そのことによって音楽がどんどん良くなって、二人で音楽の旅をしているという感じになるので、聴いている人もぐいぐい引き込まれていきます。
音楽のレッスンは自分の心が動くように、そして相手の心を感じるように、そして一緒に心を動かせるように。そういうことを心がけてレッスンしていくのが良いですし、これは人生にも絶対に生きてくると考えています。
樹原涼子:熊本市生まれ。武蔵野音楽大学卒業。1991年より順次出版されたメソッド「ピアノランド」がベスト&ロングセラーに。作曲、執筆のかたわらセミナー、コンサートや音大での特別講義などを通じ、ピアノ教育界に新しい提案と実践を続けている。
※この記事は6月11日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。