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静岡・磐田市にある曹洞宗の古刹・定光寺で、クラウドファンディングを活用した取り組みが行われました。老朽化が進んでいた千手観音像を修復し、1000年の歴史をつなぐプロジェクトです。
【画像】記事中に掲載していない画像も! この記事のギャラリーページへ手は針金で固定 自立できなかった千手観音像
磐田市にある定光寺(じょうこうじ)は、約1000年の歴史を持つ曹洞宗のお寺です。寺には長い年月、地域の人々に大切に守られてきた千手観音像が伝わっています。

今回は、修復された千手観音像がお寺へ戻ってくる日に密着しました。
仏像が到着する前に、まずは修復の経緯を松本龍哉住職に聞きました。
古くから受け継がれてきた千手観音像ですが、長い年月の中でさまざまな損傷が生じていたそうです。

手の部分が取れてしまい、針金で結んで固定されていた箇所もあったといいます。
定光寺・松本龍哉 住職:
当時の人から見たらかわいそうだから、ひとまずは手を付けてあげたのだと思います。せっかくならちゃんとした姿に戻してあげたほうが、観音様も喜んでくれるかなということで始めました

「みほとけのキセキ」展がきっかけに
修復のきっかけとなったのは、浜松市美術館で行われた「みほとけのキセキ」という展覧会でした。
多くの人が千手観音像に興味を持っている様子を目の当たりにした住職は、次世代に伝える義務があると感じ、クラウドファンディングを立ち上げたそうです。

支援の輪は広がりました。寄付者のうち約半分は檀家、残り半分は檀家以外から寄せられたといいます。
定光寺・松本 住職:
半分は檀家さんがクラウドファンディングでも寄付をしていただいてますけど、そうでない方からも残りの半分はご寄付をいただいている状況なので、かなりありがたかったと思っています

こうして多くの人の支援によって修復が実現することになった千手観音像は、埼玉県にある仏像専門の工房で、約1年かけて修復が丁寧に施されました。

いよいよ千手観音像が戻ってくる
修復が完了し、ついに定光寺へ戻ってくる日がやってきました。再生した千手観音像を乗せた車の到着を、住職や支援者はじめ大勢の人が見守っています。
千手観音像は白布に覆われた状態でゆっくりと運び込まれ、丁寧に支えながら本堂へと安置されていきます。

修復前は足の部分に損傷があり、自立するのも難しい状態でしたが、すっと立ち上がりました。その背の高さに迫力を感じます。
そして顔を覆う布が取り外されます。目に光がともったようで、ため息が漏れる神々しさでした。

この日、住職や支援者に見守られながら仕上げの作業が施され、千手観音像は見事に復活しました。
平安時代末期の仏像が持つ価値
浜松市美術館の学芸員で仏教美術の専門家である島口直弥さんに、この千手観音像について聞きます。
この千手観音像は、定光寺のすぐ近くにある観音堂に伝わる、平安時代末期の像だということです。

浜松市美術館 学芸員・島口直弥さん:
平安時代の終わりの仏像は貴族の時代なので、どちらかというと丸顔で穏やかな表情を浮かべています。衣の彫りも浅く流れるようです。そういった時期に好まれるような様式が、この千手観音立像に顕著に表れています

仏像にも時代ごとの流行やスタイルが反映されているといいます。
浜松市美術館 学芸員・島口さん:
その時代によって仏像は作り方や様式が変化します。我々の今のファッションや髪型が時代で変わっていくように、仏像もその時代の背景、歴史、文化を反映するので、その違い見てもらうのもおもしろいと思います
修復で明らかになったこと
大規模な修繕によって平安時代の状態に近い姿を取り戻したという千手観音像。修復をしたことで、新たな発見もあったそうです。
実は、表面には後の時代に修理された際の塗料、すなわち本来の姿ではない彩色が施されていたため、それを全てはがす作業が行われました。

浜松市美術館 学芸員・島口さん:
表面の彩色を取り去ったことによって、彫刻面がすごく際立って分かるようになったんです。平安時代の仏師が彫った900年前の彫りです
その彫刻面は平安時代の風合いがそのまま残っており、これだけ良好な状態で残っていること自体が、地域の人々が代々大切に守ってきた証だといいます。

また一度完全に解体して素材の状態に戻してから修復が進められました。その際に確認されたのが、像の中の空洞です。
像は耳のラインあたりで前と後ろにぱかっと割れ、中をくり抜いてまたくっつける「割矧造(わりはぎづくり)」と呼ばれる技法で作られていました。

さらに、目の部分に水晶が入っていることも分かりました。像の内側がくり抜かれているからこそ、水晶をはめ込むことができるのだといいます。
「玉眼(ぎょくがん)」と呼ばれるこの技法は鎌倉時代以降に流行するもので、平安時代末期の像にこの技法が用いられていることは、当時の流行の最先端を取り入れていた証拠だということです。

浜松市美術館 学芸員・島口さん:
京都とか奈良にその時代あっても全然遜色ない作りのお像ですので、技術がこの地域にしっかりと伝わってきている。そしてそれを受容できるような人たちがこの地域に根付いていたという証拠にもなります
今回の修復によって、遠州地域に古くから仏教文化が根付いていたことが改めて確認されることになりました。
「100年、200年後の未来へ」
島口さんは今回の修復の意義についてこう語ります。
浜松市美術館 学芸員・島口さん:
このお像がまた100年、200年経つと傷んでくる時期がきっと来るはずです。そうしたときに、昔からすごく大事にされてきてるので、これからは自分たちが守っていこう、未来につないでいこうという意識を持っていただけるといいと思っています

クラウドファンディングという現代の手段を通じて、約1000年の歴史を持つ千手観音像が見事によみがえりました。地域の人々が長きにわたって守り続けてきたこの像が、これからも次の世代へと引き継がれていくことを願わずにはいられません。
■スポット名 定光寺
■住所 静岡県磐田市前野1773-1
■問合せ 0538-32-1325
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