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介護中の父から言われた「役に立たない」という言葉。介護に限らず、誰でも相手から否定されたら不満に思い、言い返したくなります。しかし、その言葉と戦わなくても「あること」を理解するだけで心が軽くなります。
テレビ静岡で2023年4月23日に放送された「テレビ寺子屋」では、僧侶の川村妙慶さんが、介護中のエピソードを話しました。
コロナが生んだ家族問題
僧侶・川村妙慶さん:
コロナ禍により在宅勤務やリモート会議が普及しました。また、退職をきっかけに在宅時間が増えたという人もいるでしょう。
そんななか、家族の関係は二極化していると言われます。
ひとつは家族のコミュニケーションが増えて安心したというケース。もうひとつは、今まで外で活動していた家族がずっと自宅にいることで不満を抱えるケースです。
人はなぜイライラしてしまうのでしょうか?きつい言葉をかけられたり、相手の言葉を重く受け止めたりすると私たちは心の中で善悪を決めてしまいます。
このため怒られて納得がいかない時は「こんなにがんばっているのに私が悪いの?」と言い返したくなってしまうのです。
父のひと言で悪者に
いま私は両親の介護をしています。ある時、ケアマネージャーが父に「やさしい娘さんですね」と声を掛けてくれました。
すると父は「そんなことはありません。何も役に立ちません」と答えます。
ケアマネージャーが帰った後、私は父に「こんなにがんばっているのにそんな言い方はないでしょう」と強く言ってしまいました。
その時、「私は完璧な娘になろうとしているのでは」と自分の気持ちに気づいたのです。
「よくやってくれている」と言われると安心するものの、「役に立たない」と言われるとムッとしてしまう。
私は悪者になっていました。
私たちは、相手から否定されたり、未熟なところを指摘されたりすると言い返そうとしてしまいます。しかし戦ってもしかたありません、なぜなら相手も言い返してくるからです。
戦わない仏教の教え
人間には自我の心があります。「自我」とは自分を中心に、守ろうとする心のバリアのことです。仏教には「戦うな」という教えがあります。
相手の本質を見抜けば、戦う必要がないことを教えてくれます。本質とはどういうものなのでしょうか?
今回、父が「役に立たない」と言ったのは「自分は不自由している」と伝えれば、ケアマネージャーにやさしくしてもらえるかもしれないという本心があったからだと思います。
心配してもらいたかったからです。
逆に「娘が何でもしてくれて助かる」と言ってしまうと同情してもらえないかもしれません。
「いろいろな人にかまってもらいたい」という父の気持ちが「本質」です。それがわかれば言い返す必要もなく、心が軽やかになります。
コミュニケーションのカギ「キャッチボール」
私は学生時代、ソフトボール部に所属していました。球技はボールのやり取りが中心です。監督からはキャッチボールが基本だと教わりました。
キャッチボールには肩慣らしの役割もありますが大切なコミュニケーションの手段でもあります。相手が取りやすいボールを投げるように心掛けます。
会話も同じです。柔らかい言葉をかけることによって相手が受け取りやすくなります。そのやり取りからチームワークが生まれます。
みなさん、心のキャッチボールをしながら軽やかに生きていきましょう。
川村妙慶:福岡県生まれ。真宗大谷派僧侶。関西を中心にラジオ番組のパーソナリティーなどをつとめる。ホームページで日替わり法話を毎日更新し、メールでの悩み相談にも応じている。
※この記事はテレビ静岡で2023年4月23日に放送された「テレビ寺子屋」を元に作成しました。