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J2リーグ第8節、清水エスパルスは東京ヴェルディと対戦し、2対1で逆転勝利した。新たにチームを率いることになった元コーチ、秋葉新監督の初采配。今季8戦目、昨季から通算すると14試合、7カ月ぶりに試合を制し、チームはホーム・IAIスタジアム日本平に駆けつけたサポーターとともに勝利を祝った。
◆これまでのストレス
2月18日に行われた開幕戦、その日から1カ月半にわたり勝ち切れなかった。しかも直近2試合は敗戦。昨シーズンから数えると実に7カ月月も勝利を手にすることができず、ヴァンフォーレ甲府戦後にはその責任を問われ、ゼ・リカルド監督は退任した。
なぜ勝てないのか―。J2に降格したチームだったが、J1でも高い評価を得た選手が残留し、リカルド監督はブラジルの名門クラブを率いた実績を持っている。その組み合わせにある程度 説得力はあった。ただ、J1残留を実現できなかったことも事実で、不安の種がなかったわけではない。
実際にリーグ戦が始まるとその不安が現実となった。失点はしないが得点が取れない。ボールをつなぎ支配率を上げる、クロスを入れる、シュートも打つ、だがゴールには入らない。開幕からのリーグ戦は5試合連続で引き分け、得点はV・ファーレン長崎戦でのディサロのボレーシュート、ジュビロ磐田戦でのサンタナの2本のシュートと3得点にとどまっていた。さらにその後の2試合はともに黒星。ファン・サポーターにとってはまさに「悪夢」で、どこかもやもやした雲がゆらめいているような、出口の見えない状態だった。リーグ戦は7試合が終わって勝ち点5の19位となっていた。
◆対策は機能していたか
得点が取れない理由をいくつかの方向から考えてみたい。相手チームの視点でみると、「元J1のチームを負かす」「負けて失うものは何もない」「自分たちの力量を試す機会」と多くのやる気を高めるテーマがあり、単純に『挑戦者としてのメンタリティー』を保ちやすく、積極性のスイッチが入りやすい環境にあった。
エスパルスが正面から受けて立ち横綱相撲で構えたとしたら、それこそ相手の思うつぼだ。リカルド監督の目指す「ボールを支配する」サッカーできれいにつなごうとする、低い位置でのボール回しでの小さなミスは相手チームの「格好の餌食」に近い。加えて、一時のほころびからカウンターを食らい失点するリスクは避けたいという「去年までJ1チーム」というプライドが、選手一人ひとりにチャレンジができない枷をかけてしまったのかもしれない。
また主体的に見た時に大きな理由の一つとして、ゴール前に引き切って守備を固める相手のブロックを効果的に崩す術が機能していないことが挙げられる。リーグが始まる前から想定されたこの問題について、私たち記者からもしつこくリカルド前監督に質問が飛んだ。「ボールを早く動かす、サイドでコンビネーションを使う、1対1を仕掛ける、効果的なサイドチェンジ、ペナルティーエリア外のシュート、セットプレー…」と教科書通りの応えが返ってきた。だが、試合を観てもセットプレー以外に選手たちに明確な指示が出ているとは思えなかった。
それでも得点が取れない現実に対し、白崎は真摯に「フィニッシュの精度を上げてトライする。そしてそれをやり続けるしかない」覚悟を口にした。選手は全く諦めていない意志を確認できた。
◆秋葉新体制で覚醒を引き起こしたベテラン
東京ヴェルディ戦を見る限り、最大の功労者は乾だった。元日本代表、ロシアW杯での活躍も記憶に新しいところだが、昨年からチームに加わったベテランは、秋葉監督から2つのタスクを与えられていた。ひとつは率先して運動量を増やし、相手よりアグレッシブに戦う姿をチームメイトに見せること。もう一つは、これまでの攻撃で少なかった「タメ」を持たせること。前半の立ち上がりにセットプレーのこぼれ球からリードを許し追いかける展開となったが、この起用は徐々に効果を見せはじめる。
相手陣内から積極的にボールを奪いに行く「ハイプレス」はヴェルディの常套手段だ。だが、乾は相手のお家芸を逆手に取り、味方選手が追いかけるきっかけを作り、試合を優位に進めることに貢献した。自陣からのビルドアップでは、乾がつなぎに関わると、変化をつけて相手が得意とする前からの追い込みがなかなか仕掛けられない。本人は「完ぺきではない、ちょっと違う」と謙そんするが、ヴェルディ戦を優位に進める役割を果たしたことは確実だ。
1点ビハインドで迎えた前半のアディショナルタイム、中央で持った乾から中山へ。シュートフェイントから右前に流し込むと、詰めていた北爪が豪快に右足を振り抜き、1対1の同点に追いついた。
その後も試合のペースを握り続けたまま後半45分、神谷のコーナーキックからオ・セフンが高さのあるヘディングシュートで2対1、逆転で今季初勝利を決めた。神谷は乾、セフンはサンタナと、終盤で交代出場し逆転の使命を受けての登場だった。エスパルスは試合を通じ常に気力や運動量で相手を上回り、90分間を戦い続けることができたゲームだった。
ようやく勝ち星をつかめた。長かったし、待ち遠しかった。リーグ戦で7カ月ぶりとなる「勝ちロコ」はサポーターに安堵を与えたに違いない。
◆たかが1勝、されど1勝
秋葉新監督のサッカーに対するポリシーは明快である。「アグレッシブで超攻撃的」なサッカーを目指す姿勢と、「フットボールを楽しむ」ことの重要性。加えて清水のサッカーの歴史に対し最大限の敬意を払いながら「ファミリー・サポーター」の力の結集を訴える。この試合で、長いリーグ戦を戦い抜き「1年でJ1復帰」という目標実現に向けて、達成への期待が高まる指導力を見せた。
たかが一勝、されど一勝。エスパルスは19位から16位へと順位を上げたが、まだまだ上位チームが数多くある。ともあれ、リーグ初勝利を手にした成功体験は、さらなる飛躍へつながると信じたい。リーグ戦はあと34試合、道のりは長い。
テレビ静岡報道部スポーツ班 外岡哲