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「1年でのJ1復帰」を掲げながらも大事な場面での勝負弱さが響き、昇格の夢が幻と消えた清水エスパルス。Jリーグの“オリジナル10”として輝かしい実績も今は昔。歯車はどこで狂ったのか。エスパルスの1年を振り返る。
指揮官を引き受けた理由は…
エスパルスは2023年シーズンを迎えるにあたって“1節平均で勝ち点2の獲得”を目標として設定していた。
ただ、第7節終了時点の勝ち点はわずかに「5」と目標値を「9」も下回る状況。さらに、これまでのJ2を振り返ってみると、第7節終了時に勝ち点を「5」しか積み上げられていないチームが昇格したケースはないという絶望的な状況で、秋葉監督が指揮官を引き受けた理由は何だったのか?
この点について、秋葉監督は「リカルドさん(前監督)の力になれなかった悔しさがある」と前置きした上で、「連戦が続く中で自分位しかいなかったのでは」と試合スケジュールは待ってくれない状況を客観的かつ冷静に見つめていた。
一方で「これだけのクラブで、これだけのメンバーで勝てないわけがない」とも話し、チームが秘めた力は“こんなものではない”という思いも、監督就任という決断の大きな要因であったことを明かしている。
かつての輝きを取り戻すために
クラブとしては“元気な熱血漢”というキャラクターだけでなく、実際にJ2を舞台に監督経験があることや育成年代の日本代表コーチを務めチームの再建に向けた理論や戦術の引き出しを有していることを評価した。
就任会見で掲げた方針は主に次の8つだ。
1)1年でのJ1復帰はデータの上では厳しいが、誰もやっていないことを成し遂げたい
2)“継承”と“進化”を大事にし、良いところは引き継ぎつつ新しい変化にもトライする
3)チームにはすばらしいユース組織があり連携を強化する
4)すばらしいサポーター・ファミリーを大事にする
5)選手や戦力はすばらしいので強者のメンタリティと勇気を持つマインドを回復させる
6)進めたいサッカーは“超攻撃的”“攻守にアグレッシブ”
7)攻守にバランスが必要
8)明るく楽しくフットボールを楽しむことも大事
チームに浸透した秋葉イズム
秋葉監督はこの方針に基づいてチームの改革に着手した。
例えば、中盤以降こそ試合前やセットプレーの練習を非公開としたが、就任直後は練習をフルオープンにしてサポーターや記者に見せるようになったし、2種登録の選手をどんどん練習に呼ぶようになった。
また、ルヴァンカップではユースの矢田・小竹・太田・田中を重用し、アウェイでの戦いの際には残り組の全体練習をユースの責任者であるアカデミーヘッドオブコーチングの森岡隆三 氏に任せる場面も増えた。
さらに試合後にサポーターと直接言葉を交わして自分たちの戦いを応援し続けてくれるようお願いした時もあった。
第31節で首位の町田を相手に0対2の劣勢から大逆転勝利を収めた後にはインタビューで「This is Football」と絶叫。この場面はSNSでも話題となったが、サッカーというボールゲームで起きるエキサイティングな展開を選手が体現したことに喜びを爆発させた。
このほか、事あるごとにミーティングやメディアを通じて“目指すべきサッカー”を伝えた結果、“超攻撃的”“攻守にアグレッシブ”はエスパルスの代名詞となり、しっかりと守りながらも波動的な攻撃を繰り返すチームへと成長。第10節の山口戦では6対0、第14節のいわき戦では歴代最多記録となる9点を挙げた。
秋葉監督は就任からリーグ8試合で6勝2分。5~6月は停滞もしたが夏場にはクラブ記録となる14試合連続負けなし(9勝5分)を記録し、自動昇格圏内となる2位まで順位を押し上げた。
熱血指揮官により前監督時代に感じられた閉塞感は徐々に消え、明るく開かれたエスパルスに戻ったかのように見えたし、この男ならどん底からのJ1復帰を本当に成し遂げてくれるのではないかという期待を大いに抱かせた。
しかし、リーグ戦も最終盤に差し掛かると“大事なところで勝負弱い”という“いつものエスパルス”が顔をのぞかせるようになる…。
(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)
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