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静岡県牧之原市の川崎幼稚園で女児が登園バスに置き去りにされ死亡した事件をめぐり、運営法人の代理人が遺族に対し園の継続などを通知した。そこには目を疑うような一文もあり、遺族は怒りをあらわにしている。
杜撰な管理で女児が死亡 4人を書類送検
2022年9月5日。静岡県牧之原市にある認定こども園「川崎幼稚園」で河本千奈ちゃん(当時3)が登園バスに置き去りにされ死亡した。
園側は到着時に車内に取り残された児童がいないか確認していなかったほか、クラスを受け持つ職員も千奈ちゃんが教室にいないことを認識していたにも関わらず、別の職員に確認することも、保護者に問い合わせることもしなかったという。
当日の最高気温は30.5℃。警察の実験では車内の温度は40℃超だったことがわかっていて、後にバスを運転していた理事長 兼 園長(当時)の増田立義 氏やクラス担任など男女4人が業務上過失致死の疑いで書類送検され、検察による捜査は今も続いている。
すれ違う遺族の思いと園の意向
事件を受け、川崎幼稚園を運営する学校法人 榛原学園は遺族との間で「川崎幼稚園を廃園にする」という約束を交わしたとされている。だが、川崎幼稚園の当時の事務長であり、現在は榛原学園の理事長を務める増田多朗 氏は2023年9月4日に応じた取材の際「ご遺族の悲痛な思いというものは十分に理解している一方、希望者がいる以上は園の継続はしていかなければいけないと考えている」と述べ、事件以降も新入園児を受け入れている理由については「入園希望者がいれば受け入れる」「入園希望者がいる以上は園を継続する」などと主張した。
一方で、千奈ちゃんの両親が事件翌日に榛原学園や川崎幼稚園の幹部と面会した際に記録した音声データを聞くと、多朗氏が「廃園するにしても段階的に廃園していくとか、今いる子供さんを一気に転園させるということは、市の方には我々の意向は伝える。その時に『どういう風に、どう進めていくか』という話は多分されると思うので」と話している様子がハッキリと残っていて、「廃園の方向に向かって考えてくれるのか?」という問いには「一筆書くつもりでいる」と返している。
また、多朗氏は「当然、私ももう川崎(幼稚園)から手を引く」とも言っている。
念書は“任意”か“強制”か
この“廃園”をめぐるやり取りについて、事件から2日後の2022年9月7日に開いた会見で立義氏は「『廃園という言葉を書いてほしい』ということは話してきた」「『廃園という言葉を書け』と言われたので書くようにした」と強調した。
ただ、音声データには千奈ちゃんの父親が「こっちからの提案は強制的に『やりません』と書くのではなく、今の気持ちを書いてほしい。それはただ『スミマセン』とかじゃなくて、どうやって償うか、園を潰すか継続するかも、しっかりと一人一人書いていってほしい」と伝える声が記録されていて、これに対して立義氏が「書くことはいいと思うが残ってしまうから、やっぱり話をして理解してもらえたら」と一度は難色を示しているのがわかる。
その後、立義氏は「苦しかったろうな あつかったろうな ごめんね千奈ちゃん」(原文ママ)と、どこか他人事のような一文を書き残したため遺族の逆鱗に触れ、再びペンを握ると「誠に申し訳ございません 廃園に致します」(原文ママ)と記した。立義氏が“書かされた”という認識でいるのは、こうした一連のやり取りに起因するとみられるが、千奈ちゃんの父親は「書きたくないのなら、何も書かずに帰ってくれて構わない」とも伝えたとしている。
代理人からの突然の通知 遺族は怒り心頭
こうした中2023年10月2日、遺族のもとに一通の文書が届いた。差出人は榛原学園の代理人弁護士。そこには2022年10月以降、月に1回ほどのペースで行っていた榛原学園や川崎幼稚園の幹部と遺族との面談を当面見合わせること、今後の連絡は法人側ではなく代理人弁護士を介してほしいこと、そして川崎幼稚園を廃園にする考えは無いことが記されていた。
特に千奈ちゃんの両親が目を疑ったのは次の一文だ。
「当法人としては川崎幼稚園の廃園のご希望に応じることはできず、今後も廃園にすることは難しいと考えております。事故を起こした法人自身がこのようなことを申し上げる資格はないのかもしれませんが、川崎幼稚園自体が千奈さんの人生の一部であると考えております」(原文ママ)
また、通知文では面談を見合わせる理由について「誠に遺憾ながら、当法人関係者が河本様を訪問する度に、河本様の不信感が増しているようです。前理事長がよかれと考えて行ったことが、かえって河本様を苦しめてしまっている結果となることは大変悲しいことです」「河本様への訪問が、河本様のお気持ちの慰謝におよそ繋がらず、かえって、苦しめてしまうことは、当法人の希望するところではございません」「訪問させて頂くことが河本様をかえって苦しめる現状においては、当法人の関係者の河本様宅への訪問につきましてはしばらくの間見合わせとさせて頂きたく存じます」(いずれも原文ママ)という身勝手な言い分も。
千奈ちゃんの父親は「よく殺した側がこんなこと言えるな。千奈の人生を奪い、終わらせたのがあなたたち(榛原学園と川崎幼稚園)なのに。ズレているなと思う」と憤り、「廃園にしたら千奈ちゃんの思い出も無くなるがいいのか?と言われているような気がした」と悔しげな様子で肩を落とした。
遺族の感情を“敢えて”逆なでするかのような運営法人側の動きに、溝は埋まるどころか深まる一方で、千奈ちゃんの両親の苦しみは増している。
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