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アスリートのメンタルトレーニングを行ってきた女性が、コロナ禍で目標を失っていたボクシング村田諒太選手をコーチング。村田選手は「ビビりで何が悪い」と本当の自分をさらけ出し、見えない恐怖に立ち向かいました。
テレビ静岡で3月5日に放送された「テレビ寺子屋」では、スポーツ心理学者・田中ウルヴェ京さんがボクシング村田諒太選手のメンタルトレーニング中のエピソードを明かしました。
「心の強さ」とはなにか
スポーツ心理学者・田中ウルヴェ京さん:
メンタルタフネスは「心理的な強さ」のことです。メンタルタフネスを説明するキーワードにコントロール(調整)とコンシスタンシー(一貫性)の二つがあります。私たちは日々いろいろな感情を持ちます。落ち込むこともあれば、不安になることもあります。うれしくなることもあります。
様々な波がある中で自分ならではの感情の調整の仕方を知って、力に変えていくことが「コントロール(調整)」です。
もうひとつは一貫性。どんなに最悪の状況でも「最低限の自分」を出せる力、それがコンシスタンシー(一貫性)です。
自分を責めないで
ボクシングの村田諒太選手のメンタルトレーニングは、2021年10月から2カ月ほどの予定で始まりましたが、実際は、翌年4月までの半年間に及びました。
トレーニングを始めた理由は、「コロナ禍で試合が何度も延期になり、目標が蜃気楼のように消えてしまうと、どうしていいかわからなくなってしまう」ということでした。
どんな人でも、大事なことが目の前から消えてしまうと喪失感から落ち込むことがあります。私がまずアドバイスしたのは「落ち込むことに落ち込まないでください」ということです。落ち込むのは当然のことです。落ち込む自分に対して「自分が弱いからだ」と責めるのは絶対にやめましょう。そう話しました。
「なぜ」を突き詰める
もうひとつは「いつ中止になるかわからない」という不安をどうするかです。人は目標だけでは力が発揮できません。「目的」を整理することが大切です。目的を確認して言語化することが「目標」に向かい続ける力、「一貫性」につながります。村田選手は最初、目的についてひとつは「ファイトマネー」、もうひとつは「勝つこと」をあげました。
しかしメンタルトレーニングではもう少し掘り下げていきます。私は3つの質問をしました。「あなたは誰ですか?」、「なぜボクシングをしているのですか?」、「なぜゴロフキン選手に勝ちたいのですか?」。
たくさんのなぜ?をホワイトボードに書き続けました。そして試合の前日、村田選手は自分の目的を次のように表現しました。
「ビビりで何が悪い。ビビりでビビって、それでも向かっていく姿が勇気であり、なにも感じない、動じない人の勇気とは、また違った勇気があるんだ、それはそれで立派な勇気じゃないか。ビビりながら、向かっていって、今までの自分を超える。その勇気を自分に見せてやれ。そんな感じです」
心を「真っ裸にされ」再びリングへ
最後に「見えない恐怖が少し楽になりました。ありがとうございます」と結んで翌日のリングに上がりました。
アスリートにとって勝敗は重要です。しかしそれ以上に、もうひとつとても大事なことがあります。それは「本当の自分を出せたか」ということです。
村田選手は今回のメンタルトレーニングについて「鎧を着せてもらえるのかと思ったら逆に真っ裸にされた感じですね」と話し、様々な感情を背負いながら素の自分でしっかりと戦う姿を見せてくれました。
これは人生についても同じです。「私の人生は、私に何を求めていますか?」みなさんも考えてみてください。
田中ウルヴェ京:スポーツ心理学者。1967年生まれ。ソウル五輪シンクロデュエットで銅メダルを獲得。米国の大学院で心理学を学ぶ。日本代表チームやトップアスリートに加え広く一般的にメンタルトレーニングや研修を行う。
※この記事はテレビ静岡で2023年3月5日に放送された「テレビ寺子屋」を元に作成しています。