在宅ホスピス医・内藤いづみさん
健やか

「いい塩梅で生き抜く」在宅ホスピス医が語る“自分らしい”最期とは【テレビ寺子屋】

末期がんの患者さんが涙とともに口にした「いい塩梅でお願いします」という言葉。在宅ホスピス医の内藤いづみさんが、自宅での看取りを通じて見つめてきた自分らしく生き抜くことの意味を語ります。

テレビ静岡で7月19日に放送されたテレビ寺子屋では、在宅ホスピス医の内藤いづみさんが30年以上にわたる在宅ホスピスケアの経験をもとに、「いい塩梅」というキーワードを軸に患者さんたちの最期の姿について話しました。

涙とともに届いた「いい塩梅」という言葉

ある末期がんの患者さんが自身の「ケア会議」に参加したときのことです。最後をどう支えるかをご家族やスタッフみんなで一生懸命話し合いました。その患者さんは認知症があって、耳も遠くてほとんど聞こえていませんでしたが、最後に涙をポトンと落として「ありがとう。いい塩梅でお願いします」と言いました。白黒はっきりさせるのではなく、自分も見守る人たちも追い詰めない“いい感じ”をみんなで目指そうって思わせてくれる。そんな素敵な言葉だと思いました。

在宅ホスピス医・内藤いづみさん
在宅ホスピス医・内藤いづみさん

『いい塩梅(あんばい)』という言葉は在宅ホスピスケアをしている私にとって大事なキーワードです。もともとは料理の塩加減を意味しますが、私たちは「いいバランス」「いい落としどころ」という意味合いで使っています。

「絶対に行かない」—家での気ままな暮らしを選んだ女性

ある時、70代後半の女性に肺がんが見つかりました。彼女は「病院は好きじゃない。家で気ままに過ごしたい」と言いました。それから3年半もの間、家族に囲まれ、食べたい物を食べて、気ままに暮らしました。

しかし、ついにがんが進行を始めました。私は、ここからは限られた時間になることを告げ、改めて病院に行かなくていいかを本人に確認すると、彼女は大きな声で「絶対に行かない」と言いました。娘や親戚が美味しいものをいっぱい運んできてくれて、こんなに快適な生活はないって言うんです。孫やひ孫までみんなが彼女の周りに布団を敷いて付き添い、まるで民宿のよう。彼女は、心から喜びに満ちた笑顔をしていました。

「今日は内藤先生の先生になってやるよ」—最期に語った言葉

いよいよ最期が近いと感じた私は、彼女に「今日は私の先生になって、今の気持ちを教えてくれますか?」とお願いしました。信頼関係があるからこそ、できるお願いです。すると彼女は「じゃあ今日は内藤先生の先生になってやるよ」と言って、こう続けました。「いつかこういう時が来るだろうってわかってた。それが今なんだ、という気持ちです」。私が「悲しい?」と聞くと「悲しくないよ。いろんな人が会いに来てくれて本当にいい時間を過ごせた。内藤先生、ありがとうね」と答えました。彼女はその後、昏睡状態になり、1週間ほどで静かに息を引き取りました。

その女性は最期をどうやって生き抜くのか、ということを見せてくれた素晴らしい方だったと思います。大切なのは自分の人生そのものを素直に受け入れて、自分の命に光をあてて自分らしく生き抜くこと。そして、『いい塩梅』を見つけながら「自分の人生は良かったな」と思えたら、こんなに幸せなことはないと思います。

内藤いづみ:
1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。1995年甲府市にふじ内科クリニックを開業。命に寄り添う在宅ホスピスケアを30年以上にわたって実践し、自宅での看取りを支えている。

※この記事は7月19日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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