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【清水区・霊山寺】「令和の大修復」終え千年前の仁王像帰還 200kg超の2体を人力で運び上げ

静岡市清水区にある、歩いてしかたどり着けない山の中の寺「霊山寺」に、200kg超の仁王像2体が、修復を終えて約2年ぶりに戻ってきました。修復に奔走した寺と、修復家、そして2体を担ぎ上げた山岳連盟。仁王像の帰還に密着しました。

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1000年の歴史で初めて 巨大仁王像の下山を決断

2026年1月17日。急で狭い石段を、静岡市山岳連盟のメンバーが慎重に一歩一歩登っていました。12人がかりで担いでいるのは、白い緩衝材で大切に梱包された仁王像です。

仁王像の重さは約200kg。高さは2mを超えます。それが2体。

つづら折りの道が続く中での運搬

目指すのは静岡市清水区の標高約150mの山中にある霊山寺です。

霊山寺は行基が737年(奈良時代)に創建した真言宗の寺です。

寺の入口にある「仁王門」は国の重要文化財。その左右を守る「仁王像」もまた県の有形文化財です。

国重要文化財の霊山寺仁王門(静岡市清水区大内)

仁王像は平安~鎌倉時代につくられ、以来1000年以上にわたり、寺を訪れる人々を見守ってきました。

しかし老朽化が進み、足元は劣化して自立できないほどに。ワイヤーで支えていました。

そこで2023年に2体の仁王像を下山させ修復することに。

約2年にわたる修復を経て、2026年1月に霊山寺へ戻ってくることになりました。

静岡市歴史博物館での展示(2024年12月)

千年以上の長い歴史の中で、仁王像の下山という大きな決断を下したのが、住職の榎本宏純さんです。 

修復するには車道が通っていない山から仁王像を下ろし、また担ぎ上げなければなりません。それは前例のない試みでした。

住職の榎本宏純さん

霊山寺 住職・榎本宏純さん:
以前から劣化が気になっていました。県の有形文化財に指定されたことをきっかけに、これから先も残していくには、きちんと修復する必要があると考えました。今回のように山から下ろし、細部まで修復するのは、記録に残る限り創建以来初めてのことでした

江戸時代に修復された記録がありますが、その際は山から下ろさず、現地で作業を行ったようです。

霊山寺本堂の二十八部衆

江戸時代以来の修復

初の門外での大規模修復を担当したのは、埼玉県にある吉備文化財修復所です。

50年以上にわたり仏像修復などに携わってきた牧野隆夫さんを筆頭に、傷みの進んでいた部分を一つ一つ確かめながら「令和の大修復」が行われました。

吉備文化財修復所 代表・牧野隆夫さん

足元は虫食いがあったり、ボロボロと剥がれだしていたました。本体とは別の木で作られてた衣は外れ、劣化により自立のバランスも悪くなっていました。それらの箇所含め、雨風にあたっても大丈夫なよう修復したそうです。

牧野さんが担当したのは傷んだ部分の修復だけではありません。

高さ約2mを超え、重さ約200kgにも及ぶ木造の仁王像を、解体、梱包、運搬、そして組み立て直す、修復に関わる全ての工程を行います。

解体したパーツを梱包する作業

さらに記録がほとんど残されていない木像の構造を読み解き、平安時代や鎌倉時代の技法を理解しながら、元の姿を損なわずミリ単位で仕上げていきます。

そうした職人技により、はじめて成り立つ修復なのです。

「阿」の仁王像

吉備文化財修復所・牧野隆夫代表:
この仁王像は全体的にオリジナルのままで、主要な部分で使えなくなっている箇所はありませんでした。丈夫なクスの一本材で作られており、内部もえぐられていません。足元の状態が悪かったり、外れていた釘などはありましたが、元の素材の良さを生かしながら、屋外の山門という環境でも耐えられるように仕上げています

「次に本格的な修復が必要になるのは900年後」と、牧野さんは自信を見せます。

「吽」の仁王像

修復を終えた仁王像は、静岡市歴史博物館で開催された企画展「しずおかの古仏たち」で、しばらく一般公開されました。

筆者は、その展示終了後に行われた解体作業から、山への帰還まで立ち会いました。

山岳連盟が活躍!山への帰還

山腹に見える青い屋根が霊山寺

修復を、縁の下の力持ちとして支えたのが、「静岡市山岳連盟」です。

仁王像を山から下ろし、修復後には再び山へと戻す。その両方の工程を山岳連盟の有志が担いました。

霊山寺へと続く道は、舗装されていない狭い道で、つづら折りの坂や不ぞろいな段差が続きます。そうした環境の中で、安全に運搬する役目を託されたのが、山道のプロフェッショナルであり、力も兼ね備えた山岳連盟のメンバーでした。

山登り前に記念撮影 関係者が一同にそろった

地元の消防職員や警察官の姿も。檀家も同行し、道案内に協力します。

霊山寺へは、通常であれば軽やかに歩いて約15分ほどの距離です。しかし、仏像を運びながらの登山は約1時間を要しました。

それを2体分。1日かけて2体の仁王像を1体ずつ寺へ運び上げます。

台の持ち手と体を結ぶロープ

約200kgにもなる仏像を、12人ほどで担ぎます。

担ぎ手は、仏像を載せた台に結んだロープを肩にかけます。コツは腕の力だけに頼らず、体全体を使って少しずつ運ぶこと。

道中の交代要員や、道を先導する人も含め、一丸となって山道を進みます。

山道を進む様子

山道プロである山岳連盟のメンバーでも、1体目の運搬では、見えにくい足場に滑ってしまうことも。長さも幅も限られたつづら折りのカーブでは苦戦し、試行錯誤する場面が見られました。

しかし、2回目の運搬では1回目の経験を生かし、動きは格段にスムーズに。

体力的には疲れているはずにもかかわらず、1回目よりも早く到着するという、まさに“プロの技”が発揮されました。

門に到着すると、山岳連盟から再び修復家たちへとバトンが渡されます。

しかし、門の中へ戻す作業もまた一筋縄ではいきません。実は、仁王像よりも後の室町時代に仁王門は建てられているとされ、当時、仁王像の出し入れを想定して設計されていたのかは定かではありません。

門内に戻す様子

角度や入れ方を慎重に見極めます。皆に見守られ、ついに仁王像は元の場所へと戻りました。

修復家たちの作業が終わると、次は住職・榎本さんにバトンタッチ。入魂式が執り行われ、仁王像に魂が戻されます。

修復後、山門に戻った仁王像

そして阿吽の仁王像が再び門に立ち、寺を守る日々が始まりました。

静岡市山岳連盟・名倉健兒さん:
たいへん難儀な作業でしたが、何百年に1度という歴史的作業に従事でき、仁王像を無事に安置できて感無量です

霊山寺から見える景色

霊山寺へ上ると、清水の町並みや駿河湾、天気がよければ伊豆半島まで一望できます。山道や境内には草花が咲き、春のハイキングにもおすすめです。

お寺に戻った仁王像と一緒に、春のひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

■スポット名 鷲峰山 霊山寺
■住所 静岡市清水区大内597

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静岡生まれ静岡育ち。 神社仏閣伝承研究家。伝承にまつわる記事や地元で見つけたおいしいお店の紹介を書いています。 好物は和歌と本とコーヒー。著書にノンフィクション/エッセイ「CHASE」、「前を向いて」。 好きな歌は 君ならで誰にか見せむ梅の花 色をも香をもしる人ぞしる  
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