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静岡・三島市にある三嶋大社で、3月22日まで天才刀工・大慶直胤(たいけい なおたね)の刀など9振が展示されています。戦うための「武器」から、新しい時代を象徴する「宝」へ。刀を通して、幕末から明治へと日本が大きく移り変わる姿を写し出しています。
【画像】記事中に掲載していない画像も! この記事のギャラリーページへ刀剣約60振が納められている宝物館
三島駅から歩いて約15分。豊かな緑に囲まれた三嶋大社には、武士や人々に奉納された約60振もの刀剣が大切に受け継がれています。

これらは美術品として美しいのはもちろん、歴史上の重要人物たちの「物語」が秘められています。刀を通して、命を吹き込んだ刀工の思いや、腰に差していた人物の生き様が見えてきます。
三嶋大社の宝物館では、常時9振から10振ほどの刀剣が展示されており、約半年ごとに内容を入れ替えています。

3月22日まで公開されているのは9振。幕末に活躍した刀工・大慶直胤(たいけいなおたね)による3振や、明治天皇によって奉納された重要文化財の「太刀 銘 宗忠(むねただ)」などです。
今回は特に幕末に関係する刀剣が多く、刀を通して動乱の世を感じられる展示になっています。見どころを、学芸員の奥村徹也さんに詳しく聞きました。

三嶋大社宝物館 学芸員・奥村徹也さん:
大慶直胤は刀剣生産の主要5派である大和・山城・備前・相州・美濃の「五ヶ伝(ごかでん)」と称される伝法すべてを再現した、非常に器用な刀工でした。今回の3振も大和伝や備前伝など異なる作風が見られます
幕末の天才刀工「大慶直胤」の刀
大慶直胤の3振。その姿と雰囲気に、筆者はまず圧倒されました。なぜなら、ものすごく「強そう」だから。洗練された美しさを越えて、見る者を震わせるような実戦刀の気迫があります。
1778年(安永7年)に出羽国、現在の山形県に生まれた直胤は、のちに水心子正秀、源清麿と並び「江戸三作」と称えられた幕末の天才刀工でした。

動乱へ世と向かう幕末。江戸三作と呼ばれた3人の刀工は、鎌倉時代の古刀が備えていた強靭(きょうじん)で鋭い実戦力を取り戻そうとしました。
どうりで、強そうなわけです。単なる外見の威圧感ではなく、生死を分ける戦いで負けないよう、実戦刀の合理性が表れています。
実戦刀の理想を追い求めた直胤は、江戸を出て日本全国を巡りながら刀を鍛えるという当時としては前代未聞といえる道を選びました。その旅路で、伊豆国にも降り立ったのです。
激動の時代を駆け抜けた直胤の3振
三嶋大社で展示されている直胤の刀は、神のために鍛えた祈りの刀から、実戦のすごみを伝えるものまで。異なる個性が並び立ちます。
三嶋大社の神のため鍛え上げた刀「イツ」
一つ目は、直胤が三嶋大社に奉納した刀「銘 奉納三嶋大明神 「イツ」(刻印) 天保二年九月吉祥日 庄司筑前大 掾藤直胤 川部正次 玉井直邦」です。
一緒に日本各地を旅していた弟子の川部正次と玉井直邦の名前が共に刻まれています。
「イツ」という刻印は、この刀を作った土地である伊豆を示します。

三嶋大社宝物館・奥村さん
よく見るとカタカナで「イツ」と刻まれています。奉納用に作られた刀のため、握り手となる柄(つか)に固定するための目釘穴(めくぎあな)が開けられていません
目釘穴がないので、刻まれた文字をしっかり読むことができます。

幕末の剣豪の愛刀
二つ目は、幕末三剣客に数えられた斎藤弥九郎が所持していた「刀 銘 天保二年仲秋 庄司筑前大掾藤直胤(花押) 「イツ」刻印」で、こちらも伊豆国で鍛えた刀です。
弥九郎が開いた道場「練兵館」には、のちの維新の立役者となる木戸孝允、高杉晋作、伊藤博文など若き志士が集い鍛錬していました。彼らの師が選び抜いたのが、この直胤でした。

直胤の刀は地位や立場を超え、幕末という時代を生きる者たちが実戦のために必要とした名刀でした。
三嶋大社宝物館・奥村さん:
刃文の幅を狭く抑えた「焼きが低い」作りが特徴です。おそらく折れにくい実戦向きの刀を意識したのだと思います
究極の切れ味を求めた刀
三つ目は「刀 銘 出羽国住人大慶庄司直胤(花押) 文化十四年仲秋同十二月廿六日於武州千住尾陽乾山士伊賀兎毛乗重乳割雁金太々自裁段之」と、とても長い名前が付いている刀です。
なにが書かれているかというと、「1817年(文化14年)に罪人の遺体で試し斬りした」という情報が入っているのです。

三嶋大社宝物館・奥村さん:
試刀家の伊賀乗重に依頼し、切れ味や強度を試した刀です。幕末動乱へと向かう時代ですが、やはり戦から遠ざかっていた時代です。自らの刀がどれほどの性能を持っているかは、刀工にとっても関心事だったのでしょう
明治天皇奉納の刀「宗忠」
大慶直胤の力強い作風とは対照的に、ひときわ優美な光を放つのが、明治天皇により奉納された重要文化財「太刀 銘 宗忠(むねただ)」です。
明治時代、三嶋大社が所蔵していた北条氏と上杉氏ゆかりの宝刀が宮中へ納められた際、その返礼として明治天皇より下賜されました。
宗忠は、鎌倉時代に活躍した「備前一文字派」に属す刀工です。宗忠の作った刀は現存数が少なく、貴重です。かつて西郷隆盛も宗忠の太刀を所持していたことが知られています。

三嶋大社宝物館・奥村さん:
それぞれの太刀は、鎌倉幕府の北条氏と、関東管領であった上杉家が奉納したものでした。今ではどちらも東京国立博物館に所蔵されています。宗忠は鎌倉期の刀ですが、反りの雰囲気や刃文のこまやかさから、平安期の刀のような優美さがあります
直胤が追い求めた「実戦の強さ」に対し、時代を超えて守り継がれてきた「伝統の美」。三嶋大社に集まった名刀は、それぞれ異なる輝きでこの国の歴史を物語っています。
とにかく大きい大太刀など他の刀剣も注目
今回の展示では、大慶直胤や明治天皇奉納の刀剣以外にも、時代を映す多彩な名刀が顔をそろえています。
なかでも目を引くのは3尺(約90cm)を超える大太刀や、平家の重宝として名高い「小烏丸(こがらすまる)」を模した太刀です。さらに桜井正次、藤原廣重といった名工たちの作も並んでいます。

またミュージアムショップでは「宗忠」や「大慶直胤」のファイルが各500円で購入できます。宝物館を訪れた記念に、お土産としていかがでしょうか。
宝物館は拝観料が必要ですが、ミュージアムショップへの入場は無料です。

筆者は今回の展示で、直胤の刀に圧倒され、心を引き付けられました。直胤が鍛え上げた名刀の気迫に、ぜひ触れてみてください。
■施設名 三嶋大社宝物館
■住所 静岡県三島市大宮町2丁目1-5
■時間 9:00~16:00
■休館日 2026年3月23・24日
■問合せ 055-975-0566(宝物館直通)
■拝観料 大人500円・大学生・高校生400円・小中学生300円
取材/大倉麻衣子
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