静岡市の地名「籠上(かごうえ)」は何のカゴ? 暴れる安倍川と徳川家康が関係するカゴでした

静岡市葵区に「籠上(かごうえ)」という地名があります。地名の由来は、頑丈に築きあげられた土手と、幼少期を静岡で過ごした徳川家康。地名とどのように関係しているのか、調査します。

周辺の神社で聞き込み調査

今回調べる地名は、静岡市葵区の「籠上(かごうえ)」。

「籠」は珍しい漢字かもしれませんが、静岡市民なら一度は聞いたことがあろう地名です。

籠上の南には駿府城があります。時代劇にも登場する昔の乗り物「駕籠(かご)」には、駿府城の殿様も乗っていただろうから、駿府城の上(北)ということで籠上、というのがにむらあつとリポーターの予想。真相やいかに。

まずは現地調査で地名に関する情報を集めます。

やってきたのは、籠上のすぐ南、賎機山の麓にある井宮神社。地元では「妙見(みょうけん)さん」の名で親しまれています。

頑丈な堤防を作る「蛇籠」に由来

神社の氏子総代・八木俊彦さんに話を聞くと、驚きの歴史がわかってきました。

どうやら関係しているのは、井宮神社を起点に続く「薩摩土手」。

一見すると普通の土手のように見えますが、地名に関係する重要な堤防でした。

井宮神社 氏子総代・八木俊彦さん：
土手が流されちゃうので、蛇籠(じゃかご)を土手の下に基礎として入れたんですよ

蛇籠とはいったいなんでしょう?

蛇籠とは、竹で編んだ長い籠に石を詰め込んだもの。薩摩土手は、堤防の下に基礎として蛇籠を入れ、頑丈に築かれました。

井宮神社 氏子総代・八木俊彦さん：
籠を埋めたから上(北)の方は籠上、下(南)はもとは籠下(かごした)と言っていたみたいです

葵区の地名「籠上」は、蛇籠を使った堤防の北側に位置することに由来していました。

薩摩土手と名付けられた堤防ですが、江戸時代には「籠鼻(かごのはな）」と呼ばれていました。周辺で暮らす人々は籠鼻を中心として、北側を籠上、南側を籠下と呼んでいたそうです。

川がないのに堤防?

あっという間に地名の謎は解けましたが、新たな疑問が。

土手はあっても、籠上周辺には川や水場がありません。なぜ土手が存在するのでしょうか。

詳しく話を聞くと、歴史上の大人物が関わっていることが明らかに。

かつて薩摩土手周辺には、暴れ川の安部川が好きなように流れていたといいます。その証拠に、周辺を少し掘ると砂利が出てくるそうです。

井宮神社 氏子総代・八木俊彦さん：
安倍川は上流の梅ケ島から河口まで40km足らずで落差1000ｍあるので急流です

約500年前には激しい流れの川だった安倍川。多くの水害を起こした暴れ川から、生活を守るために土手が必要でした。

そこで登場するのが、徳川家康です。

家康は幼少期、現在の静岡市で暮らしていましたが、井宮神社へ遊びに来たという逸話も残っており、安倍川の水害に悩む農民の姿を目にしたとも言われています。

やがて、大御所として駿府城を拠点にした家康。1606年頃、薩摩藩の協力を得て、安倍川の治水工事を開始。薩摩藩から運び込まれた石で作ったので、「薩摩土手」と呼ばれているという説もあります。

現在、薩摩土手はのどかな散歩道になっていました。

薩摩土手は周りと比べて一段高くなっていることが分かります。現在は川が流れていないので、不思議な地形に見えますが、昔は安倍川が脇に流れていた、とすると納得です。

土手の近くに、薩摩土手の由来について看板が。

家康の命令を受け薩摩藩が築いた堤防は、現在の井宮から中野新田周辺まで、全長4kmにわたっていたことが書かれていました。

静岡市葵区にある「籠上」。徳川家康の命で築かれた「籠」の入った土手を境に、南北で籠下と籠上に分けて呼んでいたことに由来していました。殿様の乗るお駕篭は関係ありませんので、お間違いなく!

■スポット名　薩摩土手
■住所　静岡市葵区　井宮町から中野新田周辺

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