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「いい塩梅(あんばい)で」最期を迎えたい “命の会議”であるがん患者が流した涙【テレビ寺子屋】

在宅ホスピス医として、さまざまな患者の最期と向き合ってきた内藤いづみさん。在宅医療を希望する、あるがん患者の「いい塩梅(あんばい)でお願いします」という言葉に、気づかされたことがあったそうです。

テレビ静岡で3月23日に放送されたテレビ寺子屋では、在宅ホスピス医の内藤いづみさんが、ホスピスケアの経験の中で、印象に残った患者の言葉について語りました。

帰宅を望む高齢の父

在宅ホスピス医・内藤いづみさん:
「塩梅(あんばい)」という言葉があります。味の加減を調節するときに使ったりしますが、一般的に使われると、広い意味があってさまざまな捉え方ができます。それが大人の知恵じゃないかなと思うんです。

私は「在宅ホスピスケア」を甲府市で30年近く実践しています。ある若い夫妻が、私が主催する「命を考える勉強会」に参加して、どうやったらより良い人生を送れるのか、年をとった親を支えられるのかという勉強を一緒にしていました。

その後、お父様が難聴になり認知症が出てきて、さらには食道がんだと診断されました。現代の医学ではいろんな手段、選択肢があるので、息子さん夫妻がお父さんにどうしたいかを聞くと、「俺はもう病院で治療するのは嫌だ」と言いました。「うちにいるようわがままを聞いてくれるけ」と、甲州弁で頼んだそうです。

息子さんが相談に来たので、「どんな病状でも支えてくれる専門家を集めて、家にいることを可能にできると思うよ」と答えました。

本人が涙を流した“命の会議”

介護保険サービスを受けると、関係者が定期的に集まって「命をどう支えるか」という会議をします。

本人が参加するのが前提ですが、本当に耳が遠いので「息子さんが代理なら本人は来なくてもいいかな」と不遜にも思ったんです。すると、ケアマネージャーが「ダメです、自分のための会議に本人が出られないなんてことはありえません」と言って連れて来ました。

真ん中にお父さんを置いて、がんの症状が出たら痛みなどで辛くないようにしっかり対処するけれど、まずはそれまでの暮らしをどう支えるかという話し合いをしました。

本人は目を半分つむった感じで、「聞こえてないだろうな」と思っていましたが、会議が終わる頃になったら、目から一筋涙がツーって流れたんです。

看護師が涙をふいて「大丈夫?」と聞いたら、ちっちゃな声で「いいあんべえでおねげえしやす(いい塩梅でお願いします)」って言ったの。すごい言葉だと思いませんか?

心に響いた「いい塩梅で」

どんなこともパーフェクトというのはない。でも、これだけいろんな職種の人が集まって、自分のために話し合ってくれる。それをありがたいと多分お思いになって、しかも「いい塩梅で」です。

「100%でなくていいから、ぜひ『のりしろ』のある、みんなが救われる方法で考えてください」と本人が言ったんですよ。私たちはみんなで「頑張ろうね」と約束をしました。

その時、私の胸の中に、「いい“塩梅”」という言葉がストンと落ちたんです。

許し許される人間らしさ

AIが発達して、「0か1か」「黒か白か」という時代に、どっちでもなく、のりしろがある「いい着地点」というのは、みんなが思わないと消えちゃうぞと感じました。

AIの便利なところは利用するけれど、ああでもない、こうでもないと考えながら、苦しみながら、「人間らしさ」「人間力」を私たちは手放しちゃいけないとつくづく思います。そして、許し許される。

100%じゃなくていいじゃないですか。人間だから。「許される」というその気持ちは、とても温かい愛情だと思います。

ぜひ皆さんも「いい塩梅って何かな?」と、頭の中でちょっと考えてみてください。

内藤いづみ:1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。1995年甲府市にふじ内科クリニックを開業。命に寄り添う在宅ホスピスケアを30年以上にわたって実践し、自宅での看取りを支えている。

※この記事は3月23日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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