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アメリカから日本に来たジェフ・バーグランド教授。日本語は、読む人が自由自在に解釈できる「受信者責任型言語」だと表現します。この特徴が、日本人の異文化を受け入れる力につながっているそうです。

テレビ静岡で2月2日に放送されたテレビ寺子屋では、京都外国語大学・教授のジェフ・バーグランドさんが、解釈が聞き手に委ねられている日本語の素晴らしさについて語りました。
組んだ手の親指 上か下か?
京都外国語大学教授・ジェフ・バーグランドさん:
手の指を組み、左右の親指のどちらが上になっているか見てみてください。

私の専門である「異文化コミュニケーション学」の中で数十カ国数十万人にやってもらったところ、だいたい右と左が半々だったそうです。
右の親指が上になっているのが僕にとっての正解で、左の親指が上になっている方は、それがその人にとっての正解です。これを「自文化」と言います。我々はあまり自分の文化を意識しないものです。

よくある例えですが、宇宙飛行士が長期間宇宙に滞在すると、帰ってきた瞬間に口から出る言葉は「重力がすごいですね」だそうです。
自分の文化から離れて初めて「自文化」を意識する。私は日本に来て、アメリカ文化をずいぶん意識するようになりました。

では、次は上になる指を変えて組んでみてください。1回目に比べ多くの人が自分の手を見て確認したと思います。いわゆる「異文化」と出会ったときに、私たちはそれを意識する、違和感を感じるのです。でも異文化コミュニケーションでは、この違和感は悪いものではありません。
私にとって異文化である「日本語」について話します。
聞き手に解釈を委ねる日本語

日本語を学ぶと「省略」が非常に多いことに気づきます。例えば、日本人同士で「見た?」「うん、見たよ」と動詞しか使わない会話をしています。英語では「Did you see it?」と主語や目的語をしっかり出さないとならず、「See?」だけでは成り立ちません。
さらに、私が一番大事な特徴だと思うのが、日本語は「受信者責任型言語」だということです。受信する側が解読しないといけないのです。

具体例として、松尾芭蕉の「枯朶(かれえだ)にからすのとまりけり秋の暮」という俳句があり、日本文学研究者のドナルド・キーンさんがこれを英訳するときに大変だったそうです。
英語にするときには「からす」が単数なのか複数なのか、「秋の暮」が日暮れなのか秋の終わりなのかはっきりする必要があります。英語は「発信者責任型言語」、発信する方が責任をもってはっきりしないといけないのです。
キーンさんが、「日本語っていいですね、自由自在に読む人が自分で解読したらいいんだ」とすごく大切なことを書いています。

日本人は世界一の「受信力」
「一を聞いて十を知る」というのは、日本語が受信者責任型コミュニケーションだからです。日本人は世界一の受信力をもっていると思います。これは素晴らしいことです。
実は、この日本人が極めてきた受信力というものが、他の文化を吸収していくために大事な力なんです。受け入れる心が大きい。「それもありかな」と否定しない。これが日本人の日本語からくる受信力だと思うのです。
「受信者責任型言語」の日本語は、本当にいいなと思います。

ジェフ・バーグランド:1949年米国生まれ。高校教師歴22年と、大学の指導では20年以上のキャリアを誇る。50年以上京都に住み、京都国際観光大使も務める。専門は観光と異文化コミュニケーション。
※この記事は2月2日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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