1966年に当時の静岡県清水市で味噌製造会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人放火事件で一度は死刑が確定した袴田巖さんが、やり直しの裁判を経て無罪となったことを受け、静岡県警は捜査の在り方などを検証し、12月26日に公表しました。
この中で、連日のように午後10時を超えて行われた取り調べや1日平均で約12時間に及ぶ取り調べ、さらには勾留の長期化をほのめかして自白を迫った点などについて、取り調べに関する各種規定がなかった当時の確定第一審においても警察官作成の供述調書がすべて証拠排除されている点から「不適正であったと言わざるを得ない」としています。
また、犯行着衣とされたいわゆる“5点の衣類”については、元捜査員に対する聞き取り結果から「警察官がねつ造を行ったことをうかがわせる具体的な事実や証言を得ることはできなかったが、ねつ造が行われなかったことを明らかにする具体的な事実や証言を得ることもできなかった」と記し、この点については聞き取りを行った捜査員は「いずれも当時は若く、巡査の階級にいたことから捜査活動の中心的立場におらず、証拠品の管理なども担当していなかったことによると考えられる」と推察しています。
その上で、事件発生当時に”5点の衣類”が発見された味噌タンク内の状況を明らかにしていなかったことは「結果として捜査が不十分であったと言わざるを得ない」と断じ、鑑定や実験が繰り返されたことで再審公判が長期化し、最終的には捜査機関によるねつ造が認定されることにつながった要因の1つは「捜査の初期段階における捜査活動の不徹底にあったことは真摯に受け止める必要があり、改めて初動捜査の重要性を認識させる教訓とすべき」と結びました。
一方、袴田さんに対する捜査の検証をめぐっては最高検も同日に結果を公表していて、第2次再審請求審において2014年3月に静岡地裁が再審開始を決定しながらも即時抗告を申し立てたことについて、審理を「不当に長期化したとは認められない」と結論付けました。
ただ、事件当時の捜査については「警察官の取り調べは任意性を欠き、検察官は警察の取り調べの影響を遮断する措置が十分ではなかった」とした上で、「検察官の取り調べも袴田さんを犯人であると決めつけたかのような発言をしながら自白を求めるなど、供述に真摯に耳を傾けたものとはいえなかった」と一定の不備を認めました。
さらに、検察官の証拠提出が不十分であったことにより、確定控訴審において裁判所にズボンのサイズを誤認させてしまい、「再審請求審の審理にも混乱を招いた」としています。
その上で、問題点を踏まえた対応策として最高検再審担当サポート室の体制強化や同様の組織を高検に設置することや再審に関する知見の集約と検察官への研修を通じた情報共有などを掲げています。