1966年に当時の静岡県清水市(現在の静岡市清水区)で味噌製造会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人放火事件をめぐっては、元従業員・袴田巖さん(88)の死刑が一度は確定したものの、やり直しの裁判(再審)を経て、2024年10月に無罪が確定しています。
こうした中、静岡地検のトップである山田英夫 検事正は11月27日、浜松市中央区にある袴田さんの自宅を訪れ、姉・ひで子さんや弁護団も同席する中、袴田さん本人に対して「捜査・公判を担当しました静岡地検の検事正として検察の思いを伝えに参りました。まず、袴田巖さんが相当の長期間にわたり法的地位が損なわれていた状況となり、その間、巖さん、そしてひで子さんがとても言葉に出来ないようなつらいお心持ちで日々を過ごされましたたことに刑事司法の一翼を担う検察としても大変申し訳なく思っています」と謝罪した上で、「また、当然のことでありますが、検察として今回の無罪判決を受け入れ、控訴しないと決めたものである以上、対外的であるか否かは問わず、この事件の犯人が袴田さんであると申し上げるつもりはありませんし、犯人視することもないと直接お伝えしたいと思います。改めまして大変申し訳ございませんでした」と頭を下げました。
これに対し、ひで子さんは「58年前の事件なので、今さら検察にどうこう言うつもりは毛頭ございません。それに私も巖も運命だと思っております。それで無罪が確定致しまして、今は大変喜んでおります。有頂天になっているんです、私たちは。それですので、きょうはご苦労様でございました。わざわざおいでいただきまして、ありがとうございました」と返しています。
また、袴田さんは「世界をうまく治めるということだね。どこまで折れなきゃしょうがないのかということが、それが問題だ。彼らの問題が出てきている。どこまで戦うのかということの決定が行われている。これで決定しようということだね。扱いをどうするのかという、そういうことが最後になっている。よろしくお願いします」と述べました。
袴田さんに無罪が言い渡された9月26日の再審判決では、静岡地裁が捜査機関による証拠の捏造を認定していて、検察側は「袴田さんが結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました」と控訴を断念する反面、「到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます」と不満を滲ませる畝本直美 検事総長の談話を発表していました。