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浜松市の自宅で祖父母と長兄をハンマーで殴るなどして殺害した罪に問われている元警察官の男の裁判員裁判が10月末から続いている。11月18日には審理の長期化が予想される場合に論点を整理するため採用される中間論告・弁論が行われ、裁判は後半に入った。
あくまでも別人格“ボウイ”による犯行と主張
祖父母と長兄の3人を殺害したとして逮捕・送検された被告は事件当時の精神状態や責任能力の有無を調べるため、約1年の鑑定留置となった。
最初の鑑定の際には解離性同一性症に伴う別人格“ボウイ”が「『犯人は父親ではなく俺だ。俺が3人を殺した』と言っている」と話したという。
このため、裁判の中で弁護側が被告人質問で事件について思うことを尋ねると、被告は犯行自体については“ボウイ”のよるものとの主張を崩さなかったものの、「僕が話し合いをしなければ誰も死ななかった。それがすべての人を不幸にした」と本来の人格である自らにも責任があるとの認識を示した。
一方、検察側は殺害の動機に直結する家族への恨みや怒りに関する質問を重ねる。
これに対し、被告は長兄に関して「怒りを抱いた時もあった」と認めた上で、「なぜ、この家庭環境を誰も解決しようとしないのか…『どうにかしたい』という思いはあった」と胸中を吐露した。
また、警察官を退職後、職に就いていなかったことに祖父母から嫌味を言われことを尋ねられたが、「それに自分が怒ることはなかった」と明言。
さらに、いびつな家庭環境の中での虐待が原因で解離性同一性症を発症し、仕事ができない現状について問われると「それは間違っていない」と話す一方で、こうした経緯が殺意と結びついたかどうかについては「それは検察の空想です」と否定している。
別人格“ボウイ”としては犯行認める
裁判の中では、被告が本来とは別の人格“ボウイ”として検察官から取り調べを受けた際の調書も読み上げられた。
「俺の名前はヤガミナオヤ。40歳くらい。漫画・デスノートの主人公をモデルにしている。被告が主人公にあこがれて、暴力的な支配をしたいという思いから生まれた」
取り調べの冒頭、このように話したという被告は、続けて「人殺しは悪いことだと思っているが、3人のような悪魔を殺すことは例外だ」と口にし、事件当日の出来事について克明に話したという。
弁護側によれば、“ボウイ”に支配されているときは、普段の被告の口調とは異なり、かなり攻撃的になるそうだ。
11月18日には被告が犯人であるかどうかについて、検察側・弁護側双方による中間論告・弁論が行われた。論告・弁論は通常1回だが、内容が複雑で審理の長期化が予想される場合に採用される仕組みで、争点を整理する狙いがある。
この中で、検察側は凶器とされる金づちの持ち手に巻かれたテーピングから被告のDNA型の血液が検出されたことや別人格の“ボウイ”と言えども犯行を自白していることなどから、「被告人以外の者が犯人である可能性など合理的に考えられない」と主張。
対する弁護側は、事件の目撃者がいないことに加え、「別人格としての自白は信用性に欠ける」など反論し、「慎重に考える必要がある」と第三者が犯人である可能性を示唆した。
裁判は後半に入り、今後は被告の精神鑑定を担当した医師の証人尋問など、責任能力の有無に関する審理が進められる予定で、2025年1月15日に判決が言い渡されることになっている。