祖父母と兄を殺害した罪に問われている元警察官の男の裁判員裁判で、男は「別の人格が3人を殺害したと認識している」と話しました。
浜松市の元警察官の男(25)は2022年3月、自宅で祖父母と兄をハンマーで殴るなどして殺害した罪に問われています。
これまでの裁判で被告は起訴内容を否認していて、弁護側も「本人がコントロールできない別の人格による犯行」と主張しています。
こうした中、11月13日の弁護側による被告人質問で、被告は改めて「犯行の記憶はない」と話した一方、現在は「別の人格が殺したと認識している」と口にしました。
今回の裁判では被告に責任能力があるかどうかが大きな争点となっていて、14日は検察側による被告人質問が行われる予定です。
改めて今回の裁判について見ていきます。
被告は起訴内容について「人を殺した自覚も記憶もない」と否認しています。
主な争点は被告が犯人であるか。そして、犯人だった場合の刑事責任能力の有無です。
被告が事件当時、解離性同一性症を患っていたことに関して、検察側・弁護側に争いはありません。
検察側は被告が家庭内で虐待を受け恨みや怒りから殺意を抱いていたことや凶器を事前に準備していたことを指摘した上で、「犯行時は刑事責任が問えるだけの責任能力があった」と主張しています。
一方、弁護側は犯行の目撃者がおらず別人の可能性があること、また、仮に犯人だとしても本人がコントロールできない別の人格による犯行で、「心神喪失または心神耗弱の状態だったため殺人罪が成立しない、もしくは刑が減軽される」と主張しています。
菊地幸夫 弁護士:
難しい裁判。解離性同一性症は、昔は「多重人格による障害」と呼ばれていた。子供の頃に虐待などを受けると、そこから自分の精神が崩壊するのを回避するために別の人格で虐待を受け止めて、本人はその記憶がないなどして自分を守るため、そのような障害が出てくる。この事件も被告が虐待を受けていたと報道されている。
罪の責任を負うためには、自分がそれを回避できなければダメ。悪いとわかっていて、自分がそれを回避できたけどあえてやってしまったというところに殺人罪の責任がでてくるが、別の人格だとすると自分がコントロールできない、回避できないということで殺人罪は成立せず、または回避が難しかったということで減刑となる、というのが弁護側の主張。
これが認められるかどうかの判断を裁判員はしないといけない。実際にはこの障害を理由に減刑した判例もある。この障害自体が研究の途上で治療法もなく、難しい裁判だと思う