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「3人に1人は亡くなる」おそろしい病気に“未病”の発想で立ち向かう…脳神経外科医の奮闘

森谷医師と脳動脈瘤手術のアップ

“未病”という言葉を知っているだろうか?これは病気を発病していないものの健康とは言い切れない心身の状態を指す。

こうした“未病”の段階で異常を見つけ健康寿命を延ばそうと取り組む1人の医師がいる。

破裂前は無症状の脳動脈瘤

森谷圭佑 医師

静岡県沼津市の西島病院に勤める森谷圭佑 医師(40)。

専門は脳神経外科で、脳腫瘍や血管障害などの手術数は年間130件を数える。

地域医療に携わる森谷医師は“未病”への取り組みについて「生産年齢人口(労働の担い手)が15歳から64歳となっているが、その人たちが75歳まで元気にいられるように我々ができることがあるのでは」と話す。

脳動脈瘤の手術の様子(提供:西島病院)

その森谷医師がいま“未病”として注目しているのが血管にこぶが出来る脳動脈瘤。

こぶが破裂すれば「くも膜下出血」につながる注意が必要な症状だ。

森谷圭佑 医師:
くも膜下出血は3人に1人が亡くなり、3人に1人が後遺症になり、ちゃんと元の生活に戻れるのは3人に1人と言われている。それだけ怖い病気なので、あらかじめそういった人たちを減らす悲しい思いをさせない方向に動いていきたい

森谷圭佑医師

ただ、脳動脈瘤は破裂する前の段階では、患者のほとんどは無症状だという。

このため、森谷医師は市民講座などを通して「もしかしたら病気があるかもしれない」という意識を持つよう呼びかけている。

森谷圭佑 医師:
ほとんどの患者さんは症状がないので病院を受診しない。だから健康診断のひとつの過程として脳ドックを受けるのがいいのでは

偶然見つかるケースも

患者に説明する森谷医師

また、患者の中には脳動脈瘤とは関係のない病気や症状で受診し、偶然見つかるパターンも少なくないという。

この日、脳動脈瘤の手術を受けるのは沼津市に住む17歳の女子高校生。

下校中に自転車の単独事故を起こし、ケガの検査をする中で左の側頭部に脳動脈瘤が見つかったそうだ。

高校生の患者

高校生の患者は「聞いた時に泣いてしまった。母の年代になった時とか、20代とか、数年後に自分が死んでしまうのではと思ったりして、すごく悲しくて怖かった」と振り返り、父親も「パニックですね。脳の病気というのも家族の中で初めてだったので。動揺しかなかった」と話した。

ただ、母親は「わからないことも先生が細かく家族に教えてくれたのでわかりやすくて。安心して任せられるなと思ったので迷いもなく(手術を)受けることを決めることができた」と決断の理由を明かす。

脳動脈瘤の術式について

脳動脈瘤の破裂を防ぐには、こぶの中に血が流れ込まないようにすることが必要だ。

基本的な治療法としては頭を開いて、動脈瘤自体をクリップで挟む「クリッピング術」と血管の中に直接カテーテルを入れて、動脈瘤にコイルを詰める「コイル塞栓術(そくせんじゅつ)」の2種類がある。

今回は動脈瘤が頭の表面に近い位置にあることから「クリッピング術」の採用を決めた。

症例少なく6時間に及ぶ難手術

クリップで血流が止まった画像(提供:西島病院)

動脈瘤の直径は約7mm。

形がいびつなうえ、血管とつながっている首の部分が広く難しい手術となったが、3つのクリップを組み合わせてこぶを挟み、血流を止める。

17歳という脳動脈瘤としては症例の少ない若い患者ということもあり、慎重を期し
手術は6時間に及んだ。

退院する高校生と森谷医師

手術後、娘に会った母親は「もう手も足も動くことができたし、しゃべることもできたんでほっとしました」と安堵の表情を浮かべた。

数日間は顔の腫れや倦怠感などに苦しんだというが、10日後に笑顔の退院となった。

退院する高校生:
良かったなって本当に思う。単独事故を起こさなかったら動脈瘤のことも気づかなかったし、ここから1年ずつ(経過観察で)自分の体調を確認できる安心感があるので、安心しかない

森谷医師も「予定通り手術も行えて元気に帰ってくれたのが一番かな」と話す。

未来の医療従事者の発掘も

イベント打合せをする森谷医師(西島病院)

森谷医師が未病とは別にいま力を入れ取り組んでいるのが、未来を担う医療従事者の発掘だ。夏休み期間中の8月25日に中高生を対象とした体験イベントを実施した。

体験イベントのひとつは、血管を縫い合わせる「血管吻合(ふんごう)」で、糸の太さは約0.02mm。

顕微鏡をのぞきながら、髪の毛よりも細い糸をピンセットを使って結ぶ。

森谷医師

森谷圭佑 医師:
医者になった気分になれるのではないか。(医者を目指す理由は)「かっこいい」とか「人の役に立ちたい」とかどんな理由でもいいと思うが、その1つとして体験してもらえたら

脳神経外科医として未病をとらえ、健康寿命を延ばそうと取り組む森谷医師。

日々、患者の命と向き合うその目は地域医療の将来を見つめている。

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