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刺身や干物など、食卓を彩る水産物。一方で、漁業の仕事に携わる人は年々減少し、この60年で約2割になっているという。こうした中で、静岡県熱海市の網代漁港に10代の男女2人の新人漁師が誕生した。2人は港町の期待を背負いながら、目標に向け奮闘する日々が続いている。
◆港町に誕生 2人の新人漁師
静岡県熱海市の網代(あじろ)漁港。古くから漁業が盛んで、江戸時代には各地を回る廻船(かいせん)でにぎわった。
この網代漁港に2023年4月、19歳の新人漁師2人が誕生した。
1人は愛知県出身の加藤大暉(たいき)さん。
そしてもう1人は静岡市出身の浦田月(しずく)さん。
2人が入社したのは、定置網漁や養殖などを行う網代漁業。若い2人に大きな期待が寄せられている。
網代漁業・林 晋也 専務:
若い人が入ってくると、活気があるというか、若いなりのエネルギーがありますね。さらに、技術が伝えられていく、会社が継続できる。そういう意味では非常にもうありがたく思っております
◆60年で2割に…漁業就業者の減少
農林水産省のまとめによると、2021年までの60年間で、全国の漁業就業者数は約5分の1にまで減少している。網代漁港でも、漁師が減り続けている。
静岡県内唯一の水産高校の焼津水産高校。これまで多くの漁師を育ててきた高校も、こうした現状に危機感を抱くとともに、新人漁師への期待も大きいという。
焼津水産高校 教師・千野 和史 さん:
生徒の考えとのギャップですよね。やはり行って(就職して)からも続かずに、辞めてくる生徒がいるのは、厳しさもあると思います。ただ、ロマンや憧れで就職して頑張ってる生徒もいます。やはり今後もいろんな船に乗り、漁業界を背負っている生徒には、ぜひ期待をしたいと思います
◆一心不乱 “好き”を仕事に
午前1時半、漁師たちが次々と港に集まってきた。船は午前2時、熱海市の沖合に設置された2つの定置網に向け出航、明け方まで水揚げ作業が続く。
新人2人の担当は網の巻き上げ。専用の機械を使い、先輩漁師とタイミングを合わせて網を巻き上げ、魚を1カ所に集める。
網の中に入った新鮮な魚。2人は黙々と作業にあたっていた。
新人漁師・加藤 大暉さん:
昔から魚が好きだったので、魚と関われる仕事を考えた時に、いろいろ思い浮かんだんですけど、食べるのも好きですし、獲るのも好きということで、漁師いいなって
新人漁師・浦田 月さん:
焼津水産に入ったんだったら、漁業に関わる仕事をしたいなって思っていました。その仕事って何だろうって考えた時に、やっぱり漁師や漁業の仕事がやりたいなって
◆「“やりたい”を応援」背中を押す母
浦田さんは網代漁業では初の女性漁師だ。漁師を目指したのは、母親との思い出もあった。
新人漁師・浦田 月さん:
中学2年生や3年生のときに、母親が釣り好きで、2人で用宗(静岡市駿河区)などの堤防に行って、朝から夜までぶっ通しで釣りしていたときもあり、そこから焼津水産っていう高校もあるよって教えてもらいました
漁師は危険も伴う仕事。しかし、母親は心配する一方、全力で応援していると話す。
浦田さんの母・留衣さん:
心配事もなくはないです。だけどそんなことを言ってたら、本人がやりたい仕事ってできないじゃないですか。ましてや危険な仕事だから、「女の子だからやめなさい」ってやっぱり言えなくて、本人がやりたいから。だから応援してます
◆目指す姿を描きながら
日が昇り始める頃、船は漁を終えて港へ向かう。ひと仕事を終えた充実感が漂っていた。
故郷を離れ、伊豆の港町で漁師となった2人。それぞれ目指すものがある。
新人漁師・浦田 月さん:
いま自分は仕事の面でまだまだな部分もあるので、そこを確実にできるようにして、知識や技術を身に着けて、最終的には自分が漁業従事者を増やしていける行動をしたいなって思っています
新人漁師・加藤 大暉さん:
ここにあの入ってる(勤める)と、船置く権利が漁協からもらえるので、その権利もらったら自分の船持って、エビ刺し網漁をやってみたいなと思っています
◆地域からの期待も背負い
網代漁業・林 晋也 専務:
仕事を着実に覚えてやっていってほしいなあっていうことを思いますし、仕事の面だけじゃなく、この地域に馴染んで、長くやってもらえば一番かなと思いますね
漁師の高齢化が進み、担い手不足が叫ばれる中2人が選んだ漁師の道。夢に向かって進み続ける2人の活躍が期待されている。