目次
病床から愛する者に思いを届けるには。在宅ホスピス医として30年以上、命の最終章に寄り添ってきた内藤いづみさんが出会ったのは、痛みのあまり小学生の娘につらくあたってしまう母親でした。

テレビ静岡で2026年7月5日に放送されたテレビ寺子屋では、ホスピス医の内藤さんが、自分らしく最後を選んで命の鎖をつないでいくことの大切さを語りました。
娘に「帰って」 病室で痛みに苦しむ母
在宅ホスピス医・内藤いづみさん:
これは、私が小さな良性の病気で入院した時のお話です。2泊3日の短い期間だったので、私は同室の患者さんに気を使わせないよう、医者であることを伏せて3人部屋の真ん中のベッドに入りました。
窓際のベッドには40代の女性がいて、痛みと吐き気で一日中苦しんでいます。話を聞くと、その患者さんは外科の病気で、眠れない状態が一週間も続いていると言います。

その女性には小学生の娘さんがいて、毎日お見舞いに来ていましたが、苦しくて眠ることもできないお母さんは「見舞いに来ないで、帰って」と言います。すると娘さんは泣きながら帰っていく。
またあるときは「お母さん、商店街でかわいいブーツ売ってたの。こんどお母さんの具合がいい時に一緒に行ってブーツ買って」という娘さんに「そんな話を聞いてる暇はない。早く帰りなさい」と怒鳴っているのです。

娘を抱きしめ「あきらめず生き抜いて」
「これは私がなんとかしなくては」と思いました。
その病院にはチャプレンという「心のケア」を専門とする聖職者がいたので、私はその人に声をかけて、「彼女が主治医に苦しんでいることを伝えられていないから何とかしてほしい」と相談しました。ほどなく主治医がやってきて窓際の女性と話し、すぐに痛みを緩和する薬や処置を考えてくれました。
痛みや吐き気が緩和されたことでその女性は眠れるようになりました。そして、「ごめんね。お母さん苦しかったんだよ」と言って娘をぎゅっと抱きしめ「こんど具合がいい時に一緒にブーツ買いに行こうね」と言いました。

退院する前に私はチャプレンにもうひとつお願いをしました。「あのお母さんは行く末が短い。娘さんが未来をどう歩むのか、母親として安心できるようにアドバイスをして支えてあげてください」と。
後日、女性から届いた手紙にはこう書かれていました。
「おかげさまで娘の将来を家族と考えられました。毎日娘を笑顔で抱きしめて、『あなたの人生しっかりあきらめずに生き抜くようにね』と伝えています。私は、本当にいい最終章を送ることができました」
自分らしく“命の鎖をつなぐ”
子供に対して愛情を持っていても、体が苦しいとそれを示すことはできません。その女性が母親の愛を取り戻して、たとえ短い時間でも娘を抱きしめて「あなたの幸せを祈ってるよ」と伝えられることのお役に立てて、良かったなと思います。
これまでいろんな人の命の最終章に寄り添ってきましたが、自分らしく最後を選んで命の鎖をつないでいくのが本当に大切なことだと思います。

ある患者さんは、自分の命が短いと自覚した時に「俺の最後の仕事は、どうやって死んでいくか、どうやって生き抜くかを、子供や孫に見せることだ」と言いました。
最後までその人らしく生きられた姿を間近で見られるのは、次の世代を生きる人たちにとって、素晴らしい学びであって、心豊かになることだと思います。

内藤いづみ:1956年山梨県生まれ。福島県立医大卒業。1995年、甲府市にふじ内科クリニックを開業。命に寄り添う在宅ホスピスケアを30年以上にわたって実践し、自宅での看取りを支えている。
※この記事は2026年7月5日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
【もっと見る! テレビ寺子屋の記事】
