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人生の最後に自分の生き方を振り返ったとき、どんな気持ちが残るのでしょうか。明るい病室の患者、見舞いが絶えない患者。医師として多くの死を見届けてきた鎌田實さんが、患者たちから学んだこと語ります。

テレビ静岡で2026年1月18日に放送されたテレビ寺子屋では、医師・作家の鎌田實さんが、終末期医療の現場で出会った患者たちの生き方から学んだ、上手な人生のしまい方について語りました。
最後に世界へ飛び出した農家の男性
医師 作家・鎌田實さん:
人は限りある命を生きていて、必ずいつか「死」が訪れます。いい人生だったと最後に思えるような上手な人生のしまい方には、「うまいように生きる」ことが大切です。
80代のおじいちゃんが緩和ケア病棟に入院してきました。農業をしていたその男性は、村一番の野菜を作ることが目標だったそうです。

「農機具も肥料も一番いいものを使って最高の野菜を作る、それが俺の人生だった。でもあるとき、人生をギアチェンジしなくちゃいけないと思ったんだよ」。
仕事ばかりで遊びにいったことがなかったと気づき、彼は一人で世界に飛び出しました。アジア・アフリカ・南アメリカ、いろんな所へ行ってみると旅はとても面白く、言葉が通じなくても身振り手振りでなんとかなることも知ったと言います。

彼の病室にはアフリカの音楽が流れていて、友達や親戚がいっぱい来ます。亡くなる前の日、彼は息子を呼んで「いい人生だったぞ、ありがとな」と伝えたそうです。息を引き取るときも、友達や親戚や家族が全員集まりました。
僕が亡くなったことを伝えると、長男と親友が拍手を始めました。他のみんなもつられるように病室は大きな拍手で包まれたのです。

50年間医師をやってきて、多くの死を見てきましたが、こんな光景は初めてでした。みんなにすてきな人生だと思われていたんですね。
彼からとても大事なことを学びました。ある年齢を過ぎたら人生終わりということはない、人生にはギアチェンジをする時があるんだ。70歳の下り坂なら「セカンド」にチェンジしてゆっくりと走ってもいい。人によっていろんなギアチェンジの仕方があって、それがその人の人生を豊かにしていく。人生に手遅れはないのではないか、と思います。

「コウカイは海でするもの」
70代後半の末期の肺がんの患者さんが入院してきました。少し血を吐いたときに、主治医が止血剤を出そうとしたら「もういいんだよ」と断られたと報告があり、僕はすぐその患者さんの病室へ行きました。
「主治医から病気の説明を聞いて、全部納得しているんですか?」と聞くと、ニコニコしながらこっくりうなずくんです。そして「人生に後悔はないんですか?」と聞いたら、彼は笑顔でこう答えました。
「先生、コウカイ(航海)は海でするもんだ」。
自分が死に近づいている状況でも、ユーモアを忘れない。奥さんも娘さんも、お父さんの気持ちがよくわかっているようでした。それから亡くなるまでの間、この病室はずっと明るかったです。

後悔のない生き方を
僕たち人間には必ず限りがあります。うまいように死ぬためには、うまいように生きること。
最後に後悔がないように生きて、自分の人生を終える。それが、上手な人生のしまい方だと思います。

鎌田實:1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。諏訪中央病院名誉院長。地域医療に携わる傍ら、イラクや東日本の被災地支援にも取り組む。「がんばらない」「大・大往生」など著書多数。
※この記事は2026年1月18日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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