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7月上旬、静岡・下田市の水族館で使われなくなった漁網を回収し、リサイクルするプロジェクトが開催されました。来館者には網から釣り針を取り除いてもらい、きれいになった網はプラスチック製品に生まれ変わります。
【画像】記事中に掲載していない画像も! この記事のギャラリーページへゴーストギア「廃漁網」の回収はなぜ必要?
海中に漂う漁の網「廃漁網」はゴーストギア(幽霊漁具)と呼ばれています。
廃漁網に絡まって餓死したり、傷ついて死んでしまったりする生き物があとを絶ちません。

また、船のプロペラに絡まって船舶事故を引き起こすこともあるため、人間の生活においても放置できない問題です。
キンメダイの漁に使用される漁網は、1回きりの使い捨てです。水深約200mの深い海から引き揚げた漁網は糸が絡まり、再利用はできないそうです。
本来であれば、漁網に付いた釣り針や仕掛けの金属を取り除いたうえで、分別して処分する必要があります。

しかし手間がかかるため、そのまま海へ廃棄したり、金属が付いたまま自宅で燃やして処分したりするケースが多いそうです。
そこで、廃漁網を回収して金属を取り除き、リサイクルする仕組み「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト」が立ち上がりました。

子供にもできる「廃漁網リサイクル」プロジェクト
下田海中水族館で「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト」が行われるのは、2024年7月からこれが3回目です。

駐車場にテントを立て、水族館を訪れたお客さんに、廃漁網から釣り針を取り除いてもらいます。
作業を通して廃漁網をプラスチック製品へリサイクルする取り組みを知ってもらいます。

作業中は子供から大人まで、みんな楽しくワイワイ。ひと塊をきれいにし終えたら達成感も大きく、満足して帰る人がほとんどです。
「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト」とは?
こうしてきれいになった廃漁網を工場へ送り、プラスチック製品にリサイクルします。
過去に伊豆の稲取漁港で、廃漁網から釣り針を取り除く活動が行われました。

協力企業のひとつである再生素材メーカー「リファインバースグループ」の工場では、漁網を洗浄して細かく切断、加工することで、プラスチック製品の元となるペレットにリサイクルします。
ペレットを購入してくれたメーカーが、ペレットを使って衣類や文房具などを作ります。

今回、なぜ下田海中水族館がこのプロジェクトに協力することになったのか、水族館のスタッフに聞きました。
下田海中水族館 都築 信隆さん:
稲取漁港で活動しているところを間近で見て、自分も海のために何かしたいと思いました。下田はキンメダイ漁が盛んなので、キンメダイの廃漁網をリサイクルして新たな製品を作る循環が構築しやすいと考えました。また水族館で実施することで、子供から大人まで、自然環境について考えてもらうきっかけになると思います
とにかく継続が大切なので、今後も年に2回開催したいと都築さんは言います。

プロジェクトを主催した「パディ・アジア・パシフィック・ジャパン」は、スキューバダイビングの指導機関です。
2020年に、企業から廃漁網をリサイクルする仕組みを作りたいとの相談を受けたことがきっかけで、プロジェクトを立ち上げました。

しかし、廃漁網を回収する段階で、すでに苦労の連続でした。
パディ・アジア・パシフィック・ジャパン・貫井 健介さん:
地元の漁師さんへ廃漁網の提供を相談したところ、手間やコストの観点から初めは敬遠されました。しかし、一部の漁師さんから協力が得られ、認知度が高まるにつれて、協力の申し出が徐々に増えました
プロジェクトの目標は、まずは静岡県各地で廃漁網をリサイクルする仕組みが整えられることにあります。仕組みができ、自らの手を離れても問題ない状態にすることを目指しています。
今回きれいにした廃漁網はなんと190kg

釣り針を取り除いた廃漁網の重さを量ります。ふくらんだ廃漁網は、両手で抱えるだけでも大変です。
あまりにも多いため、途中からイルカの体重計で計測しました。
これで一度に台の上に廃漁網を乗せられるので、あっという間に計測できます。さすが水族館です。

この日の参加者は31人。釣り針を取り除いた廃漁網は過去最高となる190kgでした。
廃漁網はどんな製品に生まれ変わる?

きれいにした廃漁網は、愛知県一宮市にあるリファインバースの工場へ運ばれます。
洗浄した廃漁網を溶かして筒状にしたあと、細かく裁断し、プラスチック製品の元となるペレットを作ります。
廃漁網1kgでペレットが1kg分作れるため、今回は190kg分のペレットが作れることになります。

衣料品や文房具など、いろいろなメーカーがペレットを購入して、製品を作ります。
例えば廃漁網のペレットから作られたコート。漁師が提供した廃漁網をコートにリサイクルして、また漁師が着用する、といった循環を目指しています。

また、今回のプロジェクトの参加者全員に、廃漁網から作ったテープのりが配られました。テープのりのカバーの部分が、廃漁網をリサイクルしたペレットでできています。

プロジェクトの課題のひとつに、金属が完全に取り除かれた状態でなければリサイクルできないという点があります。
金属の除去は手間と時間がかかることから、今回のようなイベントやボランティアによる活動が、助けになります。
そして今後は漁業者と協力し、ボランティアの手がなくてもリサイクルを加速できる仕組みを見つけたいということです。
取材/奥村奈央
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