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デジタル化への危機感から生まれた新事業…製紙会社が未知のウイスキー業界に”殴り込み”

南アルプスの自然

デジタル化の進展により紙の使用量が減ることを心配した製紙会社が新たな事業に乗り出す。それは南アルプスに所有する山林を活用したウイスキー作りだ。

井川蒸留所

静岡市の中心部から車で約4時間。

秘境ともいえる静岡市葵区の山奥にあるのが井川蒸留所だ。

貯蔵庫には樽1000個が並んでいる。

井川蒸留所周辺の環境

標高1200メートル。

国内で最も高い場所にあるこの蒸溜所で作られているのが南アルプスの大自然を生かして熟成させたウイスキーだ。

ただ、手掛けているのは酒造メーカーではなく、油や水に強い紙などを作っている特種東海製紙。

特種東海製紙・松田裕司 社長

特種東海製紙・松田裕司 社長:
新聞や雑誌などいろいろな情報伝達媒体として紙が使われていたが、ほとんどデジタル化されて紙に出力せずに情報が伝達されるような形になってきている。そうした中で、私は2016年4月に社長に就任したが、その時に紙事業以外の事を絶対にやっていかなければならないという思いが非常に強かった

特種東海製紙が所有する山林

特種東海製紙では静岡市葵区に2万4000ヘクタールにも及ぶ広大な山林を所有していて、ここの木材と清らかな水をウイスキーに活用できると考えたが、製紙会社にとっては未知の領域。

それでも「社員の熱意に動かされた」と松田社長は振り返る。

特種東海製紙・松田裕司 社長:
人の想い、社員の「ウイスキー事業をぜひやりたい」というウイスキーに対する情熱が、最終的な決断に大きく関係したのは間違いない

ウイスキーの醸造工程を説明する瀬戸泰栄 所長

穀物を原料に、蒸溜によって作り出したニューポットと呼ばれる原液を木の樽で3年以上の時間をかけて熟成させることで完成するウイスキー。

樽の木材から香りの成分や色素成分が溶け出すため、熟成期間がウイスキーの特徴を左右するとも言われている。

ミズナラの樽

井川蒸溜所・瀬戸泰栄 所長:
この樽はミズナラの何百年も経っているものが、古木になって倒れていた。それを拾って製材し、そのまま倒れていたら土に返ってしまうところを、樽としての第2の人生を歩んでもらい、酒造りに生かしている

ウイスキーの香りを確認する

目指したのは「初心者から愛好家まで誰もが楽しんでもらえるように」との思いを込めて癖のない味。

焦げ目のあるホットケーキのような穀物の甘さとハニー系の甘さなど、様々な要素がある酒だ。

最初は試行錯誤の連続だったが、2024年夏、ついに商品化への道筋が見えた。

ウイスキーづくりに取り組む従業員たち

現在は6人が井川蒸溜所で働いていて、中には「ウイスキーづくりに携わりたい」との思いから転職してきた人もいる。

従業員の城本将史さん

井川蒸溜所・城本将史さん:
毎日いろいろ考えながら自分たちでできる範囲で改善しながら、日々おいしいウイスキーを作ろうと、みんなでワイワイやっているのですごく充実している

ウイスキーの販売は2024年11月からで、ようやくスタートラインに立つことができた。

井川蒸溜所・瀬戸泰栄 所長:
この山の中でとれたいろいろな木を使った樽を育てたり、使う原料を変えてみたり、僕たちの特徴を持ったままいろいろなパターンを作っていきたいというのが今後の目標

井川蒸留所のウイスキー

異業種からの挑戦で、業界に新たな風を吹き込むことはできるのか。

これからも飽くなき向上心でウイスキーと向き合う覚悟だ。

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