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静岡大学の日詰一幸 学長は再任決定にあたっての記者会見を開き、混迷を極める浜松医科大学との統合・再編について、合意を事実上白紙撤回する考えを示した。浜松医大に「協議に応じてもらえなかった」と言うが…。
静岡大の学長は現職の再任が決定
2025年3月末に任期満了を迎える静岡大学の学長について、同大の学長選考会議は10月28日、現職である日詰一幸 学長の再任を決めた。
選考の参考となる同大の役員や常勤教職員による意向投票(10月21日開票)では、有効投票1047票のうち587票を日詰学長が獲得していて、得票数の多い候補が必ずしも選ばれるわけではないとは言うものの、再任はいわば“既定路線”だった。
なぜ、静岡大学の学長選考が注目されているかと言えば、それは浜松医科大学との統合・再編が混迷を極めているからだ。
不誠実?紆余曲折の統合・再編問題
両大学をめぐっては遡ること6年前、文部科学省が少子化による学生数の減少に伴い地方の国立大学の経営が行き詰まることに備え、従来のように1つの法人が1つの大学を運営する方式から1つの法人が複数大学を運営できる方式へと制度変更を検討する中で統合・再編案が浮上。
そして2019年3月、運営法人を統合した上で浜松市内にキャンパスを置く静岡大学の工学部と情報学部、さらには浜松医科大学を合併させて新たな大学を作り、静岡市内にキャンパスを置く静岡大の人文社会科学部や教育学部などは従来通り静岡大学とする“1法人2大学案”について合意書を締結した。
ところが、である。静岡大学ではその後、“再編に待ったをかける”静岡キャンパスの教職員と“再編を悲願とする”浜松キャンパスの教職員との間で対立が激化する。
こうした中、2021年4月に“静岡キャンパス側”であり統合・再編に慎重な日詰一幸 氏が学長に就任。
すると、2022年夏には日詰学長の“私案”として、運営法人を一緒にするだけでなく、将来的には1つの大きな大学を目指す“1大学1校案”を示し、翌2023年夏には“モデルチェンジ案”として2つの大学を統合した上で静岡市と浜松市に強い権限と独立性を有する2つの学校を設置する“1大学2校案”を打ち出した。
当然のことながら、合意内容通りの履行を求める浜松医科大学が首を縦に振ることはなかったが、静岡大学は2023年12月に役員会を開き、この“1大学2校案”を大学としての成案にすることを決めてしまう。
この時、日詰学長は「合意書の締結以降、状況の変化によりこう着する協議を前に進めるためのモデルチェンジ案でもあり、合意書の範疇かどうかは議論の対象ではない」と強調し、「合意書は契約書ではない」「尊重と遵守は異なる」とまで言い切った。
このため、両大学による協議は遅々として進まず、ただ時間だけが過ぎ去り現在に至る。
合意の一方的な白紙化を宣言
再任の決定にあたって会見を開いた日詰学長は「これまで総合大学として培ってきた教育研究成果を一層充実・発展させ、現状を変革し強い大学を築き上げていく。つまり、教職員が一丸となって力を合わせ、世界水準の大学を作る」と述べ、「そのためには静岡大学を再生していくことが不可欠」と宣言。
その上で、浜松医科大学との統合・再編問題について「合意書にある2つの地区大学に分割するのではなく、1つの総合大学として発展させていきたい」と言及した。
日詰学長によれば、自らが取り組まなければならないことは「議論に区切りをつける」ことであり、このため「合意書については年度内をめどに一度リセットする」という。
これは、合意書を白紙化させるとの意思表示でもあり、事実上の“吸収合併”を目指すとの決意の表れとも受け取れる。
会見の中で、日詰学長は「3年半、学内で議論してきた中で(自身が学長に)再任され、大学としての意思が示された」との見解を示し、「残念ながら、合意書通り地区ごとに大学再編を求める浜松医科大学には協議に応じてもらえなかった。このような状況の中で、これ以上協議しても上手くいかず、身動きが取れないばかりか(議論が)まとまる可能性も低い」と不満を口にしたが、これまでの経緯からわかる通り、議論を複雑化させているのは他でもない静岡大学側だ。
浜松医大側は静岡大学側に怒り
これには浜松医科大学の今野弘之 学長も「合意書の有効性を確認した日詰学長が、我々との協議がなされないまま合意書のリセットを記者会見で話されたことは大変遺憾。このような行為は大学間の信頼を根本的に毀損するものである」と怒りをあらわにし、両大学の統合・再編の早期実現を目指して自治体や経済団体で構成する期成同盟会の会長を務める浜松市の中野祐介 市長も「地域との協議や合意書とは異なる案の説明も一切なされないまま合意書のリセットを記者会見で話されたことは大変遺憾」と不快感を滲ませている。
また、静岡大学が本部を置く静岡市の難波喬司 市長も11月6日の定例会見で、「大学の自治の問題」と前置きしながら、「リセットということで白紙に戻ると思うが4年間の遅れはとんでもない遅れ。外部の競争的資金を取って、最先端の研究をしている人たちは頭を抱えているのではないかと思う。静岡大学には魅力ある大学のために何をすべきか早く議論を進めてほしい」と“要望”した。
合意書を締結した張本人であり、静岡大学の前学長である石井潔 氏はかつて、現在の日詰体制について「植民地を手放そうとしない帝国主義国によく似ている」と痛烈に非難したが、この過激な表現が適切かどうかは別として、統合・再編に期待していた人たちが同じような思いを抱いていることは間違いないだろう。