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【御前崎・桜ヶ池】龍となった僧がいる池 “赤飯”を沈める奇祭 壮大な龍神伝説に圧倒されに行こう!

太平洋を望む静岡・御前崎市にある池宮神社には、龍が鎮まると言われる巨大な池があります。池の大きさと言い、ここで行われる奇祭といい、計り知れないパワーを秘めた龍神伝説に迫ります!

太古にできた池「桜ヶ池」

御前崎市の海岸近くにある「桜ヶ池」は、約2万年前に自然にできたと言われる池で、広さは約2万平方メートル。県指定の名勝です。

深さが分からないほど水が満ち、三方を緑に囲まれたその姿。古代の人をも魅了し、万葉集に詠まれるほどでした。

本殿の方から見た桜ヶ池

周りには住宅街もある中、突如現れる大きな池に初めて来る人は驚くことでしょう。深さは調査されたことがなく、わかっていません。

この池には龍神伝説に登場する龍が鎮まると言われています。

その桜ヶ池をご神体として祭るのが、隣接する「池宮神社」です。

池宮神社の鳥居

地元の人達からは、農耕に不可欠な水の神様として信仰を集めます。

主祭神は清め払いの水の神様「瀬織津比売命(せおりつひめのみこと)」で、穢れを払って開運に導いてくれるとされています。

他には、恵比須様として親しまれる商売繁盛の神様「事代主命(ことしろぬしのみこと)」と、農耕や水の守護神である「建御名方命(たけみなかたのみこと)」が祭られています。

1400年以上続く神社

池宮神社の創建は古墳時代、敏達天皇の治世である584年です。

宮司は創建当時から代々続く佐倉家が務めます。48代目宮司を父に持つ禰宜の佐倉信道さんが、龍神伝説について教えてくれました。

禰宜の佐倉信道さん

昔からこの地域は宮司の名字と同じ、佐倉と呼ばれています。そして池の「桜」とも同じ響き。文献によっては「佐倉ヶ池」と表記されていることもあります。

宮司として48代も続く家系であり、池や地名とも縁がある佐倉さん。長い歴史の伝え手でもあります。

池宮神社 禰宜・佐倉信道さん:
神社の創建は瀬織津比売命がご出現された584年ですが、栄枯衰退が激しく、一度平安時代初めに社殿が大破しました。その後、藤原氏の荘園の縁で、平安時代中期の一条天皇の時代である1001年に再興されました

僧侶が龍となった伝説

桜ヶ池にまつわる伝説に、私たちの未来に関わるかもしれない「龍神伝説」があります。

平安時代末期の比叡山に皇円阿闍梨(こうえんあじゃり)という名僧がいました。

皇円阿闍梨は、弥勒菩薩が56億7000万年後に人類を救うために現れるその時まで、龍になってこの池で待つとして入定しました。

入定とは、修行を積んだ高僧が亡くなることなく瞑想(めいそう)を続けているとの真言宗の信仰です。

皇円阿闍梨の祭壇

なぜ比叡山にいた皇円阿闍梨の入定の地に桜ヶ池が選ばれたのでしょうか。

それは弟子たちが全国津々浦々巡り、その一人であった法然上人が遠江国に入った際、弥勒菩薩からお告げを聞いて、この霊池を見つけたからだと言われています。

地図やGPSがない時代に、この池をお告げで見つけることができたことも、56億年を龍になって待つという話も、計り知れないことばかりです。

池宮神社 禰宜・佐倉信道さん:
「龍」は最も聖なる生き物で、水を司り吉祥の象徴でもあります。この伝説は人々の信仰をあつめ、約800年間連綿と続いているお祭り「お櫃(ひつ)納め」の起源となりました。

奇祭「お櫃(おひつ)納め」の意味

仏教的な思想から生まれた伝説ですが、今は皇円阿闍梨は龍の神様として池宮神社であがめられています。

龍となった皇円阿闍梨の供養に、赤飯を詰めた“おひつ”を池に沈める「お櫃納め」が毎年9月お彼岸の中日に行われます。

約840年続くお祭りで、体を清めた氏子たちが立ち泳ぎで池の中央まで行き、赤飯の入ったおひつを沈めていきます。2024年は9月22日に開催されます。

おひつには申し込んだ人の願いや名前が書かれ、途中浮かぶことなく沈めば、龍神に願いを聞き入れてもらえた証とされています。

(画像提供:池宮神社)
過去の「お櫃納め」の様子(画像提供:池宮神社)

県指定の無形民俗文化財となっている、この珍しい祭りは、どなたでも自由に見学できます。

桜ヶ池の龍神伝説は「遠州七不思議」の一つ。さらに桜ヶ池が遠く離れた長野県の諏訪湖とつながっているという説まであるそうです。

池宮神社 禰宜・佐倉信道さん:
沈めたおひつの一つが長野県の諏訪湖から出てきたおいう逸話から、桜ヶ池と諏訪湖がつながっているのではないかという説もあります。一層逸話を信じたくなる人が多い理由として、諏訪湖の諏訪大社の御祭神も、池宮神社の御祭神と同じく建御名方命なのです

徳川慶喜ゆかりの神社

池宮神社は、大政奉還後に静岡で暮らしていた徳川慶喜も幾度となく訪れました。

慶喜が池の水を使って墨をすって書いたのが、本殿にある「池宮神社」の額です。本殿に入れば間近で見ることができます。

額には徳川家の家紋と池宮神社の宮司・佐倉家の家紋が施され、徳川家と佐倉家のつながりが深かったことを感じさせます。

徳川慶喜が書いた「池宮神社」御前崎市指定有形文化財

池宮神社 禰宜・佐倉信道さん:
初代静岡県知事の関口隆吉の父・隆船は佐倉家出身で、旗本として徳川幕府を支えていました。大政奉還後、京からのその足で寄るくらいの親交があったのは、親子で幕末を支え、知事の関口氏が牧之原のお茶を外国へ広めるなど文明開化をけん引し、慶喜の思いを受け継いでいたからかもしれません

龍のお守りとご朱印帳

池宮神社には水の神様、龍の神様にちなんだデザインのここでしか買えない、お守りやご朱印帳があります。

ご朱印帳は、桜ヶ池の桜と池に眠る龍、そしておひつが描かれています。

龍のお守り(各800円)とご朱印帳(1500円)

御朱印は6種類あり、1枚300円で書いてもらえます。他にも、龍神絵馬や護摩木、おみくじなどもあるので、お参りをしたら社務所にもぜひ寄ってみてくださいね。

土から出てきた美しい観音様

歴史が長い神社だけあって、仏教色を濃く残す神社でもあります。境内には今も観音様やお地蔵様を始め釣鐘など、神社では珍しいものも多く、参拝の対象にもなっています。

広い境内を散策していると、いくつかの石像やお社を見つけることができます。

特に目についたのが、お社にまつられていた白い美しい姿の観音様です。

池の端が崩れて出てきた観音様

池宮神社 禰宜・佐倉信道さん:
お地蔵様など石像に囲まれたお社には、観音様がまつられています。時代は不明ですが、池の端が崩れた時に出てきたという観音様です。明治時代に入るまで神道と仏教の垣根はそもそもなかったのです。なので、その前の時代の仏教らしいものも境内では多々見られます

池の中に埋もれていたとは思えないほどきれいな状態なので、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。

池のほとりにある釣鐘

社務所の隣には、無料で拝観できる資料館があります。

龍神伝説を始め、池や神社にまつわる資料だけでなく、徳川家との関わりから本居宣長、山岡鉄舟、勝海舟など、名立たる歴史上の人物たちの資料も間近で見ることができます。

社務所横の資料館

人類を救うために弥勒菩薩が現れるのは約56億7000万年後。天文学的に地球の寿命があと約50億年とされているのは、偶然の一致なのでしょうか。計り知れないことばかりに思いを巡らせることになった神社でした。

9月22日に行けば「お櫃納め」も見学できるので、龍神伝説を肌で感じられるチャンスです!

■スポット名 桜ヶ池 池宮神社
■住所 静岡県御前崎市佐倉5162
■時間 8:30~17:00(社務所)
■問合せ 0537-86-2309

取材/麻衣子

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静岡生まれ静岡育ち。 学芸員目指して勉強中。神社仏閣巡りが好き。 主に静岡県中部エリアの情報発信をしていきます。
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