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東名高速・裾野ICのすぐそば。トヨタ自動車が手掛ける実証実験都市「Woven City(ウーブン・シティ)」の一角に、まるで時が止まったかのような古びた建物がある。しかし、この“廃工場”のような建物こそ、“未来のカタチ”を模索する最先端の研究・開発を担う重要な拠点となっている。
世界のトヨタ 原点は機織り機
今でこそ、世界に冠たる自動車メーカーとして君臨するトヨタだが、その起源は豊田佐吉が創業した豊田自動織機製作所にさかのぼる。佐吉は夜中まで機織りをする母親を助けるため、23歳の時に初めて豊田式木製人力織機を完成させた。

このため、機織り機はトヨタにとって、まさに“原点”とも言える存在。Woven Cityの「Woven」は英語で織ることを意味する「weave」の過去分詞で、佐吉の「自分以外の誰かのために」という想いを今も紡いでいる。

Woven Cityから“未来の当たり前”を
Woven Cityが目指すのは、“未来の当たり前”となるようなものを世に届け、幸せを量産すること。それゆえ、Woven Cityは「あらゆるモビリティのテストコース」となっている。

モビリティと聞くと、車や電車といった移動手段や付随する技術を思い浮かべる人も多いかもしれないが、トヨタでは「心をも“動かす”すべてのもの」と定義。単なる移動手段にとどまらない、新しいモビリティの形を追求している。

Woven Cityで大切にしているのが「1967」「2020」「2025」という3つの西暦。
1967年は、かつてこの地にあった組み立て工場(後の東富士工場)が完成した年で、この場所では半世紀あまりにわたって約752万台もの車が生産された。
ただ、東日本大震災を機に、トヨタは復興を長期的に支えていくためにも自動車の生産を東北地方に集約することを決断。東富士工場は2020年に閉鎖された。
そして、2025年は東富士工場がWoven Cityへと生まれ変わり、実証実験が始まった記念すべき年。Woven Cityに設置されたマンホールの蓋には、この3つの数字が刻まれている。

東富士工場のアイデンティティを後世に
Woven Cityでカギを握るのが製品やサービスを開発する「インベンターズ(発明家)」と製品やサービスを試してフィードバックする「ウィーバーズ(住民・来訪者)」の存在。
インベンターズは管理棟近くにある「インベンターガレージ」で日々、最先端の研究やテストを重ねている。

このインベンターガレージに活用されているのが、東富士工場時代の建物だ。あの“廃工場”のような建物こそ、実は新たな製品やサービスの開発を担う重要拠点となっている。

当初はすべての建物を取り壊す予定だったものの、東富士工場のアイデンティティを後世に継承しようと社員が提案し、この一角だけ耐震補強をした上で残すことになったという。

中に入ると、まず目を引くのが工場の稼働時に使用していた天井クレーン。

床の汚れや傷、それにヒビは“あえて”そのままの状態で活かしていて、壁に染み付いたオイルの跡は東富士工場の歴史を今に伝える。


遊び心あふれる会議室 宿泊施設も
一方、最新の研究・開発の拠点とするにあたっては言うまでもなくリノベーションも実施。
巨大なモニターが置かれたステージは約200人を収容可能で、成果のプレゼンなどに適している。

4つある会議室は「センチュリー」「タクシー」「AE86」「ヨタハチ」と、いずれも東富士工場で生産していた車をモチーフに、それぞれの部屋をデザイン。

例えば、タクシーの部屋でいえば電灯が行燈形に、“ヨタハチ”ことトヨタ・スポーツ800の部屋でいえばイスがシート仕様にと遊び心があふれている。




また、研究・開発が長期間に及ぶことも珍しくないため、建物内には宿泊施設も完備。


この宿泊施設には製品やサービスをウィーバーズに試してもらう“前段階”としての役割もあり、室内で機能等の検証ができるよう設計されている。


さらに、宿泊者が気軽に意見を交わせるラウンジもある。



“カケザン”で研究・開発に加速度
Woven Cityでは現在、トヨタグループのほか、日清食品やダイキン工業などが実証実験に参加していて、このうちUCCジャパンは店舗の環境やコーヒーの香り・味わいが人に与える影響を解明しようと奮闘している。

ダイドードリンコはWoven Cityに新発想の自動販売機「HAKU」を設置。コインの投入口はおろか、商品サンプルもボタンも無い、これまでの常識を覆す製品で、日常での利用状況から得られたデータを活用し、人々の楽しく健やかな暮らしを創造したい考えだ。


とはいえ、発明や開発の世界では最初から“完璧”なものができるわけではない。第三者の視点や指摘が気づきとなり、それが製品やサービスの改善・改良につながる。
そこで重要になるのが「カケザン インベンション ハブ」。インベンターズとウィーバーズを“つなげる”施設で、インベンターズは試作モデルを使用した感想や意見をウィーバーズからもらう。

通常の開発プロセスでいえば、クローズドな環境で試作を重ね、テスト・マーケティングをした段階で初めてユーザーからの評価を得られるのが一般的だが、ここでは試作段階にして“生の声”が届くという特徴がある。これにより、研究・開発の加速化が望めるだけでなく、よりユーザーに即した改善が見込まれる。

反対に、ウィーバーズの立場からすれば日常的に開発段階の製品やサービスに触れることができるという“特別感”がある。
実証実験都市の“真価”
このほか、Woven Cityでは敷地内に設置された900台ものカメラから送られてくる映像をベースに、人やモビリティの動き、街や空間の状態をAIが瞬時に把握・解析した上で言語化することで交通安全や防犯対策につなげる取り組みや人・モビリティ・インフラから得た情報を事故のリスク軽減につなげる統合安全システムの構築を進めるなど、“未来のカタチ”を模索し続けている。

トヨタの豊田章男 会長(当時は社長)は、東富士工場の従業員との対話の場でWoven City構想を初めて明らかにした際、こう言ったという。
「この場所を今後50年にわたる未来の自動車づくりに貢献する聖地にしたい」
かつて約752万台もの車を世に送り出した工場は、いまや車を“つくる”場所から、未来の暮らしを“つくる”場所へと姿を変えた。

Woven Cityの“いま”が将来の“標準”になる日はやってくるのか――
Woven Cityの“真価”、さらには“進化”から目が離せない。
