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AI社会を生きる子供の育て方 “わかったつもり”人間が増えないように【テレビ寺子屋】

AIが生活に溶け込むと、より快適で便利な社会になる可能性がありますが、一方で人間らしさや文化を失う危険があると指摘されています。そんな新しい社会を生きる子供たちに大切なことは何か、教育学の専門家に聞きました。

テレビ静岡で8月4日に放送されたテレビ寺子屋では、東京大学名誉教授の汐見稔幸さんが、AI社会が人間におよぼす影響について語りました。

AI社会を想像してみる

東京大学名誉教授・汐見稔幸さん:
将来の社会を「AI社会」と呼んでみたいと思います。AIとは「人工知能」のことで、あらゆるものに自分で考えることができるコンピュータを組み込んでいくわけです。例えば自動車は将来的には全部自動運転になり、自分で運転している人を見ることがなくなるかもしれません。

とても便利になっていきますが、そうなっていくことが人間に何をもたらすのかということについては、それほど丁寧に吟味されているわけではありません。実は、心配なことがすでに何点か指摘されています。

五感をフル活用する直接体験

例えば、映像できれいな紅葉を見て楽しむのと、森や山を歩き紅葉を体験するのと一体何が違うでしょう。実際に歩いてみると、映像で見るのとは全く違います。足を滑らせたり、風が吹いてきてちょっと寒く感じたり、木漏れ日の美しさに気づいたり、予想していないことが次々と起こります。

私たちは「五感」を総動員して物を深く知ろうとするのです。感覚器官を使って、自分なりに「こういうものなんだ」と感じていくことを「直接体験」、目と耳だけで何かわかったようになることを「間接体験」と言います。

わかったつもりを生むAI社会

AI社会は下手したら、情報をどんどん上手に届けてくれ、間接体験だけでいろんな物事がわかったつもりになる、そういう社会になっていく可能性があるのです。

五感を使わないと本当のことはわからない。五感を使って感情が豊かに動き、「あれはいいよね」とか、「あれって本当は怖いよね」という価値づけをすること。これを「意味を作る」と言います。

自分なりに体験をして、五感をフルに働かせながら価値づけをする、つまり「意味を作る」こと。これが「物事を本当に知る」ということなんです。

AI社会になると「情報はいっぱい持っているけれども、でも本当の意味はわかっていない」そういう人間を大量に作る可能性があります。

文化と文明は似ているようで違う

さらにもう一つ心配なこと、それを私は「文化と文明は違う」という風に表現しています。似たような言葉なのであまり区別しないで使うことが多いですが、文化は「手間暇かけて苦労して価値あるものを作り出す営み」のことを言います。

対して文明は、「人間が面倒でもやってきたものを機械にとって変わらせることで、楽に快適に早くできる、作られた仕組み」のことを言います。

ですから文明というのは文化と違って、人間の欲望欲求をできるだけ手っ取り早く楽に実現することです。

文化をつぶさないために

忙しい私たちの生活の中には両方必要ですが、大切なのはそのバランスです。

例えば便利な冷凍食品を素早く食べる一方で、自分で手間暇かけてでもおいしいものを作る。そういうことができる自分がうれしい。

文明が栄え、文化が滅ぶということにならないようにしていかないといけません。

まずは子供たちに直接体験をいっぱいさせてあげてほしい。いろんな人と関わる体験をさせてあげてほしい。

そして文化というものを大事にする人間に育ってほしい。AI社会の中で人間らしく上手に生きるため、幼いころからそういったことを意識して育ててあげてほしいと思います。

汐見稔幸:1947年大阪府生まれ。日本保育学会会長や白梅学園大学学長など歴任。ぐうたら村村長。専門は教育人間学、保育学、育児学。現代の父親、母親の育児の応援団長をめざしている。

※この記事は8月4日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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