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明治安田生命J2リーグ第1節、清水エスパルスはホームに水戸ホーリーホックを迎え臨んだが結果はスコアレスドロー、勝ち点1に留まった。GK権田は試合後「負けに等しい引き分け」と厳しく評価し、FW北川は悔しさをにじませつつも「成長するための貴重な勝ち点1」と話した。そのうえで両選手とも「次の試合までまだ一週間ある」と前を向いた。
◆順調に滑り出したプレシーズン
今季は、DF吉田豊(名古屋グランパス=元清水エスパルス)やDF高橋祐治・北爪健吾(ともに柏レイソル)ら一線級を獲得。流出した移籍選手以上の戦力が補強できたとの見方もできる。鹿児島キャンプを含め、公開されたプレシーズンマッチでは勝利を重ねた。そして去就で揺れていた主力のサンタナ・権田・松岡の残留も決定し、結果的にJ2を戦う上で“圧倒的”ともいえる戦力がそろった。
戦術面では、2年目を迎えるゼ リカルド監督が4バックに加えて3バックという新しいフォーメーションにも挑戦した。ジュビロ磐田とのテストマッチではこれが的中し、Aチームの1本目2本目のスコアは3-0。一定の成果を得て、チームの仕上がりは憂いの感じられない状態にあった。
クラブが掲げた「1年でJ1復帰」という目標に向かって、明確な意志を象徴する「STRONG WILL」というスローガンは、エスパルスファミリーに判り易い覚悟を伝えるアイキャッチになった。チームがやってくれるという期待感は自ずと高まっていた。
◆開幕戦で見えた想定外
開幕戦でアイスタに迎えた水戸は、前週のプレシーズンマッチでJ1鹿島に2対0で勝利する好調ぶりで決して侮れない相手だ。ただ、昨シーズンの成績は13位。長いリーグ戦を考えれば、いま叩かなければならない相手である。
清水のスタメンで、フォーメーションは予想通り最終ラインにDF3人を並べる3バックだった。ただ試合前に予想した、右MFは岸本でなく吉田に、ボランチは白崎ではなく松岡だった。吉田は技術・判断力ともに抜群だが、右サイドでの起用は練習で一度も目にしていなかったので面食らったのは事実だが、登用には納得。一方、中盤での配球がカギとなると思っただけに白崎がスタメンさらにベンチにも入っていなかったことは想定外だった。
試合開始後にペースをつかんだのは清水。前半2分、権田のパントキックからFW北川がフリーでゴール前に駆け抜けて放ったシュートは惜しくも枠を越えた。勝負に「たら、れば」は禁物だが、このシュートが入っていたら、試合の展開は大きく変わっていたかもしれない。
その後、徐々に水戸がボールを握り返し清水に襲いかかる。14分には唐山が抜け出して放ったシュートがバーに当たるなどチャンスを作り出すと、22分にはCKのルーズボールで清水ゴール寸前まで迫るなど対等な渡り合いをしていた。これも想定外だった。
◆機能しない3バックからの切り替え
前半に清水が苦しい戦いを強いられた理由として、3バックの不適合だったのは明白だった。相手の圧力が高まると、両サイドのMFがベタ引きとなり、実質5バックになるケースが増えた。守備に翻弄されるなかで、攻撃にかかる人数は増えない上に、中盤でのプレスがかからない。ビルドアップに関しても、後ろでつなぐだけでは、相手にとって何の脅威にもならない。テストマッチでは成功したものの、実践ではまた昇華しきれていなかった。そして白崎の欠場は痛かったように感じた。
リカルド監督は後半、4バックに戻した。これで戸惑いは解消した。後半のシュート数は清水の10本に対し水戸は1本。15分、17分のサンタナのシュート、24分には山原のFK、40分は中山のクロスからコロリのシュートとつめた西澤。どれも得点になっておかしくないフィニッシュだったが、ネットを揺らすことは出来なかった。「開幕戦」というプレッシャーがそれぞれの選手にのしかかっていたのかもしれない。
サッカーは得点の数により勝利と敗け引き分けを決め、勝ち点で競いあう競技で、シュート数の数は勝ち点に影響しない。結果の受け止め方は、「勝ち点1を得た試合」なのか、「勝ち点3を積み上げられなかった試合」なのか。
◆開幕戦での「勝ち点1」を教訓に
試合終了後、GK権田は「負けに等しい引き分け」と厳しく自己評価をした上で、「積み上げたと思っていたものは何も積みあがっていなかった。だが自分たちが修正するために次の試合までまだ1週間ある」と語った。
FW北川は「チャンスを決めていれば試合は大きく変わっていた。責任を感じる」と前線の選手が決めきれないふがいなさを悔やんだ。そのうえで、シーズン全42試合のうちの1試合での結果を踏まえ、「成長するために必要な貴重な勝ち点1」として、対応力をつけることこそが大事だとも言い切った。
J2屈指の選手を抱えるエスパルスに、相手チームは高いモチベーションで常に臨んでくるに違いない。清水はいわば目標として追われるJ2最大のアイコンなのだ。
相手の「ジャイアントキリング」を狙う野望をさらに乗り越える大きな意志、これがこれからのエスパルスに必要なものだ。それを知るための勝ち点1だったとしたら、この引き分けに意味がある。長いリーグ戦はまだ始まったばかりだ。
テレビ静岡報道部スポーツ班 外岡哲