面会の制限が大きく緩和され、入所者の外出支援も本格化しつつある静岡県西伊豆町にある高齢者施設。
一方、コロナ禍にはクラスターが発生し、極限状態での介護と治療が行われていて、関係者は当時の経験をこれからも決して忘れることはない。
高齢者介護施設でクラスター発生
加藤洋司 記者：
新型コロナの法律上の分類が5類になって2025年の5月で2年。ウイルスの脅威は一向に変わらない、命を守る取り組みの大変さ、使命感も、何ら変わらないと話す方々もいます
静岡県西伊豆町にある介護老人保健施設の「しおさい」。
長期・短期を合わせて50人近くの高齢者が生活している。
食事や移動など日常生活で介助が必要な人、認知症の人は少なくない。
新型コロナがまん延していた2021年当時、ここでは極限状態での介護・治療が行われていた。
介護老人保健施設しおさい
長嶋とも美 看護師長：
こちらのフロアもすべてレッドゾーンだったので、職員はPPE（個人防護具）をナース室の前で着て、それぞれ仕事につく形でした
2021年1月。1人の感染が判明すると施設内で広がるクラスターが発生した。
事前に備えを進めていたが、想定を超えていた。
一番大きかったのは病院が患者の受け入れをできる状態になかったこと。
施設はゾーンで分けられ、懸命の介護、治療、隔離が行われた。
施設には対策本部が設けられ、県内の感染症専門医や災害派遣医療チームDMATの医師も、力を尽くした。
そんな中…。
介護老人保健施設しおさい
山本成久 事務長（当時）：
弁当をお願いしても、お宅の施設には出入りしたくないとか、自動販売機の中身が売り切れになっても補充に行きたくないとか最初ありました
「職員は街を出歩くな」といった声、家族への差別などがスタッフを苦しめた。
駐車場の車で体を休める夜、町が用意した宿泊施設で過ごす時もあったという。
ただ、町のボランティアが支えてくれた。
毎日おにぎりをつくって施設に届け続け、松崎町や河津町の個人や団体、企業から差し入れや応援のメッセージが届いた。
介護老人保健施設しおさい
長嶋とも美 看護師長（当時）：
もちろん悲しい言葉も頂きました。けれど近隣の人、多くの人からは応援のメッセージの方が多かったのでとても救われました
発生から終息まで50日間の戦いは、高齢者の命、介護の担い手をどう守るのか、地域に何ができるのかを問いかけるものとなった。
あれから4年。
施設の出入り口には消毒液が置かれ、訪問者には体温の測定、マスクの着用を求めている。
2024年12月から2025年1月に静岡県内ではインフルエンザ、新型コロナの患者が増加し施設内でも新型コロナの陽性者が出た。
介護老人保健施設しおさい
山本成久ホーム長：
医療の受け入れ、以前は患者、（重症化）リスク者を運ぶことができなかったのですが地域の病院の受け入れがスムーズになったのが一番楽になったこと
変わらないこともある。
いまでも陽性者が出た時に行われているのは施設のゾーン分け。そして、介護と治療、感染拡大を防ぐ隔離。
いずれも入所者の命を守るためだ。
介護老人保健施設しおさい
山本成久ホーム長：
5類に世の中は変わっているのですが、施設内にコロナが発生してしまうとこれまでと対応は変わらない。感染リスク等を考えていくと重症化するおそれも高いので、やっていることは変わっていない
いまも責任者を務める山本さんは感染症の影響と施設の経営を課題にあげる。
ガウンや手袋、検査キットなど介護・医療用品について施設に備えが任せられているため、昨今の物価高騰も悩みの種だ。
そして、変わらず大切にしていきたいのは緊張感と使命感を持ち、入所者の安全に努めることだと話す。
介護老人保健施設しおさい
山本成久ホーム長：
私たち介護も、高齢者、ご家族の大切な方を看ているので、命に直結するようなことは、医療・介護は感覚は変わらず今もやっている。コロナは怖いです。コロナ以外の感染症もすべて怖い
県の専門家会議の座長として先頭に立って新型コロナ対策に取り組んで来た倉井華子 医師（現・県立静岡がんセンター感染症内科部長）はこの施設でクラスターが発生した際に現地で対応にあたっていた。
県立静岡がんセンター・倉井華子 感染症内科部長：
当時この施設は本当に大変な状況だった。5類に変わったからと言って患者に与える影響が法律で変わる訳ではないので、高齢者や免疫が低下している人にとって感染症は全て怖い
注意が必要な感染症は新型コロナだけではない。
年末年始にかけインフルエンザ、マイコプラズマ肺炎が流行したのをはじめ、RSウイルスにも注意が必要だ。
県立静岡がんセンター・倉井華子 感染症内科部長：
いずれも呼吸器、気道系を問題とする病原体で2025年は多い。予防接種での予防と医療機関に掛かるタイミング、どういう人が重症化しやすいかを把握することが重要。例えばRSウイルスは高齢者も怖いが、1歳未満の乳幼児がかかると入院が必要な症状になる。家族の中で誰がどういう病気に弱いのかを知っておくのが大事
そして感染症の専門家の立場から改めて注意を促した。
県立静岡がんセンター・倉井華子 感染症内科部長：
感染症は非常に数多くあり、すべての人が一生のうちに何らかの感染症と付き合っていくこととなる。罹らないで済めばそれに越したことはないが、罹ってしまい命を落とす人がいることを忘れてはいけない。今でもコロナで亡くなる人は多い。コロナについて思い出したくないかもしれないが、自分以外の人にも目を向ける意識は大事。おそれすぎるのも良くないが、全くおそれずに無関心になるのは良くない
