「2024しずおか総決算」と題し、この1年を象徴する県内の出来事を振り返ります。1回目は無罪判決が確定した袴田巖さんの裁判から再審の在り方を考えます。
落合健悟 記者:
無罪です。たったいま無罪が言い渡されました。法廷で國井恒志 裁判長は袴田巖さんに対し無罪を言い渡しました
1966年6月、当時の清水市で一家4人が殺害された強盗殺人放火事件。
その犯人とされ、一度は死刑が確定した袴田巖さんのやり直しの裁判で、2024年9月、静岡地裁の國井恒志 裁判長は捜査機関による証拠の捏造を認めた上で、無罪判決を言い渡した。
袴田巖さんの姉・ひで子さん:
本当に長い裁判で、みなさまありがとうございました。無罪を勝ち取りました。裁判長さんが「主文 被告人は無罪」というのが神々しく聞こえました。私はそれを聞いて感激するやらうれしいやらで涙が止まらなかった
無罪判決から3日後、大勢の支援者に万雷の拍手で迎えられた袴田さん。
自らの言葉で感謝の思いを口にした。
袴田巖さん:
待ちきれない言葉でありました。無罪勝利が完全に実りました。ついに完全に全部勝ったということで今日はめでたく皆さんの前に出てきたということです。ありがとうございました
10月8日には検察が控訴の断念を発表。
これにより袴田さんの無罪が確定し、逮捕から実に58年ぶりに真の自由を手にした。
これを受け、10月21日には県警の津田隆好 本部長が袴田さんと姉・ひで子さんの元を訪ねて直接謝罪した。
静岡県警・津田隆好 本部長:
袴田巖さん、ひで子さんにおかれましては、逮捕から無罪確定までの58年間の長きにわたり言葉では言い尽くせないほどのご心労・ご負担をおかけし申し訳ありませんでした
謝罪を受けたひで子さんは…。
姉・ひで子さん:
58年も前の出来事ですので、私たちはもう運命だと思っております。巖も私もそう思っておりまして、今さら警察に苦情を言うつもりはありません。きょうはわざわざおいでくださいましてありがとうございました
また、11月27日には静岡地検のトップである山田英夫 検事正も2人に頭を下げた。
静岡地検・山田英夫 検事正:
この事件の犯人が袴田さんであるということを申し上げるつもりはございませんし
犯人視することもないということも直接お伝えしたいと思います。改めまして大変申し訳ございませんでした
一方、袴田さんの冤罪事件をめぐって問われているのが裁判のやり直し、いわゆる再審の在り方だ。
9月に都内で開かれた再審法改正イベントに出席したひで子さんは次のように思いを述べた。
姉・ひで子さん:
47年間、巖が拘置所の中で頑張った。その頑張りを再審法に、ぜひみなさんの力で改正なり訂正なりして欲しいと思う
再審法改正に向け、日本弁護士連合会などが特に問題視しているのが証拠開示に関する規定だ。
通常の裁判員裁判では審理を迅速に進めるため、検察側に自分たちの持っている証拠リストを弁護人に示すことが義務付けられている一方、再審についてはこうした開示義務がない。
日本弁護士連合会・鴨志田祐美 弁護士:
捜査機関が集めた証拠の中に、再審を求める人の無実を示す証拠が隠されている可能性があるのに、それを出せというルールがない。それでとても時間がかかってしまっている
こうした状況を受け、2024年3月には超党派の国会議員による再審法改正議連が発足した。
この議連に現職中は名を連ねると共に袴田さんの救援を後押しする議連で長年、会長を務めたのが元衆議院議員の塩谷立 氏だ。
元衆議院議員・塩谷立 氏:
今まで全く手をつけないで昔の法律のままで来たこと自体が問題だったし、これをしっかり見直していくことが必要。速やかなしっかりとした対応ができるよう制度的に作っていくということ
その上で同じ問題意識を持つ後輩議員たちを後方から支援していく思いだ。
元衆議院議員・塩谷立 氏:
裁判の問題というのは難しい点もあるが、十分に議論して今までのように時間をかけてやることではなくてもっともっとスピーディーにやると。それから制度的にも証拠の開示とかもどんどんやっていかないと時間がかかると余計、その人の生命にも関わることだしさまざま改善すべき点は多々あると思う
袴田さんの無罪が確定した2024年10月には、38年前に福井県福井市で女子中学生が殺害された事件をめぐり7年間服役した前川彰司さんの再審が認められた。
こうした流れを受け、法務省は再審制度に関する法改正の議論を始める方向で調整を進めている。
再審法改正の議論がどのような方向で進むのか注目される。