静岡県が建設を計画している”新図書館”が難航している。建設費を100億円増額しても工事を希望する業者は現れず、県の担当者は「大阪万博などで人手不足になっている」と嘆く。
周辺に緑があふれるユニークな形の建物。各フロアは階段でつながり、広場もある。
建物の中は吹き抜けの明るい空間で、壁には多くの本が並んでいる。
これは静岡県が計画する新たな県立中央図書館のイメージだ。
4年後の完成を目指していたが2024年11月13日、県が急きょ会見を開き、発表したのは…
静岡県新図書館整備課・金嶋克年 課長:
公告をかけたところ、1社からも手を挙げてもらえなかった。入札不調という取り扱いとなった
建設工事をしたいと名乗りを挙げる業者が1社も現れなかったのだ。
入札不調の要因として金嶋克年 課長は「大阪万博をはじめ多くの工事にいろいろな業者が手を取られている。人手が足りなくなっていることも大きい要因と考えている」と人手不足を指摘。
さらに、ここ最近は人件費や資材費も急激な値上がりを見せている。
こうした状況から県はすでに事業費を192億円から298億円へと100億円増額。
それでも工事をしたい業者が現れなかった。
静岡県・鈴木康友 知事:
全国的にかなりの工事がストップしていることを聞いているので、どのように対処していくかについてはしっかり教育委員会と詰めていきたい
同じようなケースは県内の他の場所でも起きている。
全国有数の温泉地・伊東市。旅館やホテルが立ち並ぶ市街地に、ぽっかりと空いた土地がある。
ここは伊東市が計画する新たな図書館の予定地だが、工事の入札が成立しなかった。
伊東市教育委員会 生涯学習課・山下匡弘 課長:
そんなに失敗するものではないだろうと基準に則って入札価格は決めていたので、“青天の霹靂”みたいなものはあった
総事業費として当初設定したのは37億円。価格は2024年1月に行った見積もりで決めた。
実際に入札を行ったのは2024年5月で、見積もりから4カ月ほどしか経っていない。
それでも人件費や資材費の急激な値上がりから、業者が”利益の出ない仕事”と判断したと伊東市はみている。
山下匡弘 課長は「(37億円は)入札時よりも前に算定された基準なので、設計終了時から入札までの間に資材価格などの高騰があったこと。そんなことから(入札)不調になったのではないか」と話す。
すでに今の図書館は完成してから40年以上が経過。
本来の計画では2023年7月には着工していた予定で、これ以上の遅れは避けなければならない。
そのため、当初の計画から延べ床面積を2割縮小し、蔵書数も30万冊から25万冊に減らして費用を圧縮。
それでも人件費や資材費の高騰などの影響で5億円増額してしまうが、完成を急いでいる。
伊東市教育委員会 生涯学習課・山下匡弘 課長:
いろいろな意見や時間をかけて積み上げてきた市民の思いを形にする事業なので、何としても完成の日の目を見て、ぜひ多くの人に訪れてもらえる図書館にしたい
費用高騰や人手不足に伴う公共建築への影響。
専門家は「公共建築特有のシステムが現在の状況に対応できていない」と指摘する。
静岡産業大・小泉祐一郎 教授:
役所の公共建築は一定の方針が出てしまうとそれをそのまま進めていく。途中で単価が上がってしまうので、設計変更しようとか、そういう話にならないことが多い
設計・見積もりと入札・工事では別の会社が担うことが一般的な公共建築。
しかし、設計から工事まで時間がかかり、柔軟さもないため、現在のような急激な物価上昇に対応できていないという。
その上で小泉教授は「入札までの流れを一体化することも必要」との見解を示す。
静岡産業大・小泉祐一郎 教授:
設計は設計、建設は建設と分担すると、なかなかコストダウンが図りにくい。設計と建築工事を一体的に発注していく中で、「設計変更をある程度、柔軟にやりながらコストダウンを図る」ということも考える必要がある
物価上昇が続く中、今後も費用の増額が続く可能性は十分にある。
「費用はどんどん上がるもの」という認識を持ち、対策を講じていく必要がありそうだ。